喪失、そして再生~どこか遠くへ~My Godness完結編
第3章 ♣海ほたる舞う夜♣
「あの―、俳優の向井さんですよね? テレビとかによく出てる。うちのお姉ちゃん、向井さんの大ファンなんですけど、サインして貰えませんか?」
お下げ髪の子がおずおずと差し出したのは、向井理の写真がデカデカとついた下敷きだった。
もう、目眩がしそうだ。悠理は微笑みながら説明する。
「あのね。多分、君たちは勘違いしてるんだと思う。俺は俳優なんかじゃないし、テレビに出たことなんてないから」
「えー、向井さんじゃないんですか?」
ショートヘアの方が心外だと言わんばかりに抗議する。
いやいや、参ったな。悠理は内心、逃げ出したい衝動に駆られた。
「だからね、俺は向井さんじゃないの」
「嘘。そっくりなのに」
頬を膨らませるショートヘアの子に代わり、お下げ髪が言った。
「このはちゃん、もしかしたら、このお兄ちゃんは向井さんのそっくりさんなのかもしれないよ?」
「あーあ、何だ」
ショートヘアがませた口調で重々しく頷いた。
「いや、だから、俺はそっくりさんでもないって―」
言いかけても、女の子たちはいっかな聞く耳を持たない。
「そっくりさんでも良いです。お姉ちゃん、歓ぶと思うんで、サインして下さい」
ショートヘアが迫ってくるので、悠理はもう自棄になった。
ええい、ままよと下敷きとサインペンを受け取った。流石に自分ではない他人のサインをするわけにはいかないので、下敷きの右端に〝Yuri☆〟と適当に走り書きしておく。
「これ、何て読むの?」
と、ショートヘア。
「ゆうりと読むんだよ」
「ユーリって、芸名なんでしょ」
これはお下げ髪。
悠理は苦笑した。
「違うよ。本名だよ、本名」
「素敵な名前」
女の子たちは何が嬉しいのか顔を見合わせ、キャーキャーと騒いでいる。
お下げ髪の子がおずおずと差し出したのは、向井理の写真がデカデカとついた下敷きだった。
もう、目眩がしそうだ。悠理は微笑みながら説明する。
「あのね。多分、君たちは勘違いしてるんだと思う。俺は俳優なんかじゃないし、テレビに出たことなんてないから」
「えー、向井さんじゃないんですか?」
ショートヘアの方が心外だと言わんばかりに抗議する。
いやいや、参ったな。悠理は内心、逃げ出したい衝動に駆られた。
「だからね、俺は向井さんじゃないの」
「嘘。そっくりなのに」
頬を膨らませるショートヘアの子に代わり、お下げ髪が言った。
「このはちゃん、もしかしたら、このお兄ちゃんは向井さんのそっくりさんなのかもしれないよ?」
「あーあ、何だ」
ショートヘアがませた口調で重々しく頷いた。
「いや、だから、俺はそっくりさんでもないって―」
言いかけても、女の子たちはいっかな聞く耳を持たない。
「そっくりさんでも良いです。お姉ちゃん、歓ぶと思うんで、サインして下さい」
ショートヘアが迫ってくるので、悠理はもう自棄になった。
ええい、ままよと下敷きとサインペンを受け取った。流石に自分ではない他人のサインをするわけにはいかないので、下敷きの右端に〝Yuri☆〟と適当に走り書きしておく。
「これ、何て読むの?」
と、ショートヘア。
「ゆうりと読むんだよ」
「ユーリって、芸名なんでしょ」
これはお下げ髪。
悠理は苦笑した。
「違うよ。本名だよ、本名」
「素敵な名前」
女の子たちは何が嬉しいのか顔を見合わせ、キャーキャーと騒いでいる。