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喪失、そして再生~どこか遠くへ~My Godness完結編

第3章 ♣海ほたる舞う夜♣

 向井理に酷似した超イケメンがいる―その噂は一瞬にして小さな町を駆け巡り、〝向井理そっくりさん〟ファンクラブが地元の女性たちで結成されるという騒ぎにまで発展した。悠理はたちまち、町の有名人になってしまった。
 これ以降、道を歩いていると、向こうから歩いてくる女子高生や女子中学生の集団が自分を見て黄色い声を上げていることもあった。
―?
 彼自身は、まさか自分が熱い視線を向けられているとは思いもせずに、首をひねりながら彼女たちを横目に見て通り過ぎる。
 と、背後で〝きゃー〟と歓声が上がり、
―向井クンがこっちを見た。
 と、皆で頬を紅くして騒いでいる。
 それで、やっと事態を理解し、悠理は逃げるように彼女たちから離れてゆく。そんな場面が再々出てくるのだ。 
 もちろん、まだ、このときの悠理がそんな身にかかるであろう災難? を知っているはずもない。
 コンビニで煙草をひと箱とその日の朝刊を求めて出てくると、今度は下りのバスが客を乗せて走り去るところであった。
 白い煙を上げて走り去るバスを見送り、しばらくその場に佇んでいると、変な気持ちになった。自分はもうこの町に何年も住んでいて、ずっとこの先もここに住むのだという予感のようなものを感じるのだった。
 コンビニから数件の民家を隔てて白い小さな建物があった。表には〝藪内産婦人科〟と大きく看板がかかっている。医者に〝藪〟はないだろうと思っていると、小さな建物から大きなお腹をした妊婦が出てきた。
 二十代後半から三十代初めくらいのその妊婦は大きく突き出した腹を愛おしそうに撫でながら、彼の眼の前を通り過ぎてゆく。
 その仕草や満ち足りた表情には、確かに見憶えがあった。悠理の子を宿した早妃もまた、あんな風に大きくなってゆくお腹を幸せそうに撫でていたのだ。
 悠理の記憶が巻き戻されてゆく。
 早妃から妊娠を告げられた翌日、ホストクラブを休んで二人で産婦人科を受診した。

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