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喪失、そして再生~どこか遠くへ~My Godness完結編

第3章 ♣海ほたる舞う夜♣

 診察には悠理も立ち会い、エコー(超音波)で初めて我が子と対面したときには、不覚にも涙が出た。まだ一センチ余りだと告げられた我が子は黒い小さな点にしか見えなかったけれど、医師はその点を指しながら、はっきりと言った。
―ここに心拍も確認できます。
 茫然としている悠理に、医師はにこやかに告げた。
―赤ちゃんの心臓が動いています。ここまで来たら、後はもうよほどのことがない限り、順調に育ちますよ。おめでとうございます。
 涙ぐむ悠理をもう一度、見つめ、医師は〝おめでとうございます、お父さん〟と繰り返した。
 そうか、俺が、この俺が父親になるのか。
 そんな想いがじわじわとひろがり、やがて弾けるような歓びとなった。
 子どもに誇れる父親でありたい―かつて自分の父がそうであったように―と思い、子どもが生まれたら、ホストを辞めようと決心したのも実はこのときであった。
 その後、妊娠悪阻や切迫流産で入院したもの、早妃は順調な妊娠経過を辿り、妊娠七ヶ月まで至った。早産気味のため自宅療養をしていたが、お腹の子自体の発育には何の問題もなかったのだ。
 それが、あの日の一瞬の事故ですべてが終わった。お腹の子どころか、早妃まで生命を失った。生まれるはずであった小さな生命は消え、最愛の妻もいなくなった。
 そして今、やっと得た元気な我が子は遠く離れたあの町にいて、逢うことすらままならない。
 悠理はまた重く沈んだ心を抱え、一人歩き出す。その時、妊婦に続いて白い建物から出てきた女と危うくぶつかりそうになった。
「あっ、済みません」
 謝ってから、その女が眞矢歌であることに気づく。
「悠理さん」
 眞矢歌が自分を見て微笑んだことに、何故か心が軽くなった。
「どうしたの? どこか具合でも悪い?」
 昨日の浜辺での話を思い出し、悠理はふと不安になった。

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