テキストサイズ

喪失、そして再生~どこか遠くへ~My Godness完結編

第3章 ♣海ほたる舞う夜♣

 毎日、真夏日が続いている。悠理が網元の家で暮らすようになってから、はや数日が経った。
 その日の朝、網元の家前は騒然とした。悠理は毎日、網元について漁に出ている。その日も丁度、漁の後ですぐに競り市場へ向かい、漸くひと段落ついて戻ってきたばかりのところだった。
 日曜日なので、眞矢歌も仕事は休みである。漁を終えた後、漁師たちは自宅に戻って仮眠を取るのが倣いであったから、悠理もまた二階へ上がり、布団に横になった。そこへ眞矢歌が戸惑い気味に顔を覗かせる。
 暑いので、部屋の窓も出入り口の引き戸も開けっ放しにしていた。
「悠理さん、ちょっと良いかしら」
 良いも何も、相手が眞矢歌なら、いつでも大歓迎だ。―とは流石に言えず、悠理は笑顔で頷いた。
「構わないよ。何か用?」
 本当は少しでも眠りたかったのだが、惚れた女相手に悪い顔は見せたくない。
「お寝みのところ、ごめんなさいね。でも、表にどうしても悠理さんに逢いたいって人たちが来てて」
 と、眞矢歌も少しばかり困った表情だ。
「俺に客なの?」
「ええ、それがそのう―」
 と、いつになく歯切れの悪い物言いである。控えめではあるけれど、基本、眞矢歌は言いたいことははっきりと言う性格だ。
 これは何かあると、悠理は本能的に悟った。何か背中の辺りに寒気がする―。
 仕方なく眞矢歌について階下に降りていくと、その予感は不幸にも的中してしまった。
 悠理が表に出た途端、あちこちで閃光が光った。悠理は眩しさに眼を射貫かれ、思わず額に手をかざす。
 一体、これは何の騒ぎなんだ?
 慌てて周囲を見回すも、眞矢歌の姿はない。これは逃げられたなと思ったものの、今更、引き返せもせず、悠理は茫然とその場に立ち尽くした。

ストーリーメニュー

TOPTOPへ