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喪失、そして再生~どこか遠くへ~My Godness完結編

第3章 ♣海ほたる舞う夜♣

「それにしても、私も愕いたわ。まだこの町に来て一週間ほどなのに、もうファンクラブができるだなんて。―っていうか、大体、あなたも言ってたように一般人にファンクラブができるなんてこと自体が珍しいわよね」
 と、我が事のように嬉しげに顔を輝かせる。
 そのあまりに歓んでいる様子に、悠理は余計に面白くなくなった。
「へえー、眞矢歌さんって、俺にファンクラブなんかできて、そんなに嬉しいの?」
 つい意地悪な気分になって口にしてしまう。
 悠理の気持ちも知らず、眞矢歌は微笑んだ。
「それは少しは嬉しかったりするのは当たり前じゃない? だって、こうして一つ屋根の下に暮らしてるわけなんだから。自分のよく知っている人が人気者になれば、誇らしい気分にだってなるわ」
「誇らしい?」
 悠理は心外なことを聞いたとばかりに、眉を跳ね上げた。
「俺は別に人気者になんてなりたくないよ」
 そう、かつて早妃が生きていた頃に思ったものだ。
 男はたった一人の女にとってナンバーワンでありさえすれば、それで十分なのだから。
「そうなの? 私は悠理さんがそんなに嫌がってるとは思わないから、嬉しくてつい」
 口ごもる眞矢歌に、悠理は矢継ぎ早に言う。
「俺の気持ちなんて、この際、どうでも良いんだ。眞矢歌さんは嫉妬したりしないのかな」
「―嫉妬?」
 眞矢歌の黒い瞳が大きく見開かれた。
「それは、どういう意味?」
 悠理は眞矢歌の顔を真正面から見つめる。どうやら、その表情では本当に意味を解しかねるといった風情である。
 悠理の中で大きな喪失感がひろがっていった。
「だから。俺にファンクラブができて、嫌だなとか、思わないの?」
「特に嫌だとは思わないけど。それがどうかしたの?」
 小首を傾げた眞矢歌の表情はどこか幼くすら見えて。

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