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喪失、そして再生~どこか遠くへ~My Godness完結編

第3章 ♣海ほたる舞う夜♣

 これはまずい。二度、惚れてしまいそうだ。
 艶姿に見惚れていた悠理は慌てて眞矢歌から眼を背けた。
「悠理さんに、ここからの眺めを見せたくて」
 眞矢歌はうっすらと微笑んだ。
「綺麗だね。眞矢歌さんも海ほたるも」
 悠理は視線を海に向けたまま言った。
「悠理さんは口が上手いのね。例の保育士の後輩が不思議がってた。何で、あんなイケメンで女性あしらいも上手な洗練された人がこんな小さな田舎町に突然現れたのかって」
「お世辞じゃない。俺は本当に思ったことしか口にしない」
 特に惚れた女の前では、心にもないことなんて言うものか。
 口には出させない科白をぐっと飲み込む。
「今朝は、申し訳ないことをしたわ。私、そういうことには特に鈍いから、全然判らなくて」
 眞矢歌の平坦な口調からは、悠理の告白を迷惑がっているのかどうかまでは判らない。かといって、けして歓んでいるようにも見えなかった。
「あれはもう良いから、気にしないで。告白して謝られるのって、男にとっては結構な屈辱なんだから」
 悠理は依然として光り輝く海面を見つめている。
「明日の朝には、ちゃんとここを出ていくつもりでいるし」
「何故、出ていくの?」
「君にあんなことを言っておいて、おめおめとここにいられるわけないだろう。それに、俺も男だしね。別に君に無理に迫ろうとか、そんなつもりは毛頭ないけど、やっぱり、一つ屋根の下で暮らすのはまずいと思うんだ。俺自身、このまま君の家に居候し続けて、君に何もしないでいるという自信はないし、保証もできない」
「漁師になるという気持ちは、もう棄ててしまったの?」
「仕方ないさ。所詮、ここにも俺の居場所はなかったってことだから」

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