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喪失、そして再生~どこか遠くへ~My Godness完結編

第4章 ♣永遠の女神♣

♣永遠の女神♣

 翌日の夕方、悠理は保育園の方へ脚を向けてみた。眞矢歌はいつも夕飯の下ごしらえは休日に纏めて済ませておいて、小分けして冷凍庫に入れている。保育園から帰ってくるのは大抵、六時頃なので、帰ってきてから冷凍しておいたものを温めて調理の仕上げをする。
 料理の腕は確かなものだった。眞矢歌の母は彼女が小学生のときに亡くなったという。何でかまでは訊ねなかったけれど、病気が原因だと聞いた。
 以来、料理はすべて彼女が担当してきたというだけあり、レパートリーは豊富だし、味もなかなかいける。
 悠理の方は、早朝は漁に出て、獲った魚を競りにかけてから、帰宅。昼まで仮眠を取り、午後からは漁に使う様々な用具の手入れ、船の点検などを行わなければならない。自由になれるのは夕方以降で、今日もすべての仕事を終えてから、散歩がてら眞矢歌を迎えにいこうと思いついたのだった。
 網元の住まいから保育園は歩いても十数分程度しかない。公立ではなく、私立の認可保育園である。
 悠理は園の門前に佇み、眞矢歌が出てくるのを待つことにした。今は五時半を少し回った時刻で、迎えにきた母親たちに連れられ、次々と園児が出てくる。
 まだ乳飲み子もいれば、来年は小学校に入る年長の子どもたちもいる。時折、見憶えのある顔があるのは、例の〝向井理のそっくりさんを応援する会〟のファンクラブ会員になっている母親たちであった。
「向井クン、どうしたの?」
 悠理はいちいち、愛想の良い笑顔で対応するが、はっきりとした応えは返さない。眞矢歌と自分が付き合っていることは、いずれ放っておいても、この平和で小さな町中に知れ渡ることになるだろう。何もわざわざ自分から吹聴する必要はない。
「向井さん、こんばんは」
 気さくに声をかけて通り過ぎる母親たちだが、悠理ももう〝いや、俺は溝口ですから〟と否定するのも面倒くさくなった。

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