テキストサイズ

喪失、そして再生~どこか遠くへ~My Godness完結編

第1章 ♣ここではないどこかへ♣

 悠理自身はそんなことはどうでも良かったけれど、確かにホストという前職と漁師はあまりにも違いすぎる―というか、同じ次元で語れる仕事ではない。
 父親が突然死んで、高校を中退して以来、まともに力仕事すらしたことのない自分が漁師などできるのだろうか? 疑問が波のように押し寄せてきたものの、何故だか、悠理にはこの老人からのいざないが天啓のように思えた。
 今、自分が直面しているこの際限もない苦しみから解き放ってくれるのであれば、何でも構わない。そんな半ば自棄のような気持ちもあるにはあった。
 老人には申し訳なかったけれど、別に漁師の仕事に魅力や興味を憶えたわけではなかった。
 老人はしばらく悠理をじいっと見つめ、それから頷いた。
「無理にはとは言わんが、この町の漁家も今は、若い者が次々と都会に出てしまって、人手不足でな。お前のような若い男なぞ、皆、町を出たっきりで、ついぞ帰ってこん。まあ、バイト代くらいしか出せないが、手伝ってくれるのなら、宿代はただにしてやっても良いぞ」
 老人は悠理と眼が合うと、ニヤリと笑った。
 ちょっと見は無愛想に見えるが、話し好きなのかもしれない。
「俺なんかで務まりますか? はっきり言って、漁師の仕事って全然、見当もつかないんですけど」
 思ったままを言うのに、老人は愉快そうに声を上げて笑った。
「ホウ、男前なのを鼻に掛けた青臭い若造かと思ったら、なかなか言いたいことを言うな。それだけの度胸があるなら、漁師の仕事もやってできんことはなかろうて。心配せんでも良い。仕事は一つ一つ教えてやるし、端から、そんなに難しいことはさせるつもりはない」
「それなら、俺にもできるかな」
 悠理が小首を傾げると、老人は不敵な笑みを浮かべている。
「それだけの良い体格をしとるんだ。力仕事の一つや二つはできるだろう?」
「えっ、まあ、力はそこそこあるとは思いますけど」
 悠理は頷いた。ホストは力仕事なんてする必要は全くなかったが、自分が特に体力不足だと思ったことはない。何とかなるだろうと楽観的に考える。

ストーリーメニュー

TOPTOPへ