天空(そら)に咲く花~あのひとに届くまで~
第8章 哀しい別離
あの手毬を見せたときの清冶郞の笑顔を八重はいまだに鮮明に憶えている。あれは、清冶郞が初めて見せた笑顔であった。あまりの愛らしさに、涙が出そうになったほどだった。花の蕾が綻ぶような笑みをずっと忘れないだろうと思ったのに、まさかこんな早くに逝くとは想像だにしなかった。
すべては自分のせいだ。自分がもっと気を遣っていれば、こんなことにはならなかった。
嘉亨と両想いになれたことで、心が浮き立っていて、清冶郞の気持ちにまで想いを馳せるゆとりを失っていたのだ。
清冶郞が亡くなってからというもの、八重はずっと自分を責め続けてきた。自分が清冶郞を追いつめ、死なせてしまったと。今も清冶郞の無邪気な笑みを思い出すにつけ、罪の意識が押し寄せてくる。
「そなたは結局、清冶郞を選んだのだな」
嘉亨が吐息だけで笑った。
八重は最早、何も言えなかった。また、これだけの言葉を投げつける仕打ちをしておきながら、今になって男に言うべき言葉があるとも思えなかった。
また滲んできた涙をまばたきで散らしながら、八重は真っすぐ嘉亨を見上げた。
視線と視線が切なく交わる。
恐らくは、これが最後。今生の別れになるに違いなかった。八重は想いを振り切るかのように、嘉亨から顔を背けた。
嘉亨が立ち上がる気配が伝わってくる。
背後でかすかな吐息が聞こえ、障子が静かに閉まった。今日初めに見せていた激情や昂ぶりが嘘のように、何もかもを諦めたかのような静けさが彼を取り巻いているように思えた。
それからほどなく、嘉亨は辞去していった。
八重はむろん見送りにも立たず、部屋で一人残されたまま茫漠とした視線を庭に投げていた。
すべては自分のせいだ。自分がもっと気を遣っていれば、こんなことにはならなかった。
嘉亨と両想いになれたことで、心が浮き立っていて、清冶郞の気持ちにまで想いを馳せるゆとりを失っていたのだ。
清冶郞が亡くなってからというもの、八重はずっと自分を責め続けてきた。自分が清冶郞を追いつめ、死なせてしまったと。今も清冶郞の無邪気な笑みを思い出すにつけ、罪の意識が押し寄せてくる。
「そなたは結局、清冶郞を選んだのだな」
嘉亨が吐息だけで笑った。
八重は最早、何も言えなかった。また、これだけの言葉を投げつける仕打ちをしておきながら、今になって男に言うべき言葉があるとも思えなかった。
また滲んできた涙をまばたきで散らしながら、八重は真っすぐ嘉亨を見上げた。
視線と視線が切なく交わる。
恐らくは、これが最後。今生の別れになるに違いなかった。八重は想いを振り切るかのように、嘉亨から顔を背けた。
嘉亨が立ち上がる気配が伝わってくる。
背後でかすかな吐息が聞こえ、障子が静かに閉まった。今日初めに見せていた激情や昂ぶりが嘘のように、何もかもを諦めたかのような静けさが彼を取り巻いているように思えた。
それからほどなく、嘉亨は辞去していった。
八重はむろん見送りにも立たず、部屋で一人残されたまま茫漠とした視線を庭に投げていた。