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天空(そら)に咲く花~あのひとに届くまで~

第12章 真実

 たとえ、どれだけ日々が流れようと、そのことだけは自分たちはけして忘れてはならない事実だろう。
 その時。
 ふと冷たいものが頬に触れたように気がして、八重は空を仰いだ。
 ひとひら、ひとひら、白い花びらが降ってくる。
「道理で冷えるはずだ。この季節に雪が降るとは」
 嘉亨もつられるように、空を眺めている。
 奇しくも、八重の身に纏う小袖には雪花の模様が散っている。雪の結晶の形を花のように文様化したものだ。帯は青海波、着物は薄い水色、帯は濃いめの青である。
 蓮の枯れ跡にひっそりと雪が降る。
 すべての想いを鎮めるかのように、一切の罪を浄めるかのように。
 雪はただ降り積む。
 これより先、何があろうと、自分はこの男の傍でずっと生きてゆくことになるだろう。
 天から降り注ぐ白い花びらは散華のようだ。まるで幼くして逝った彼(か)の少年の心を慰め、その死を悼んでいるようにも思えた。
 季節外れの雪は止むどころか、徐々に烈しさを増してゆく。
 八重は、嘉亨の側に佇み、いつまでも降り止まぬ雪を見ていた。

    (完)

 ☆ ありがとうございました。 作者 ☆
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