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天空(そら)に咲く花~あのひとに届くまで~

第10章 第四話〝空華(くうげ)〟・すれ違い

  すれ違い

 見る気は毛頭なかった。きっかけは本当に些細な出来事―単なる偶然から始まった出来事だったのだ。
 その日、八重は嘉亨を探して廊下を歩いていた。木檜藩主夫人となってから三月(みつき)余り、良人なった嘉亨との仲は至って仲睦まじく、昨夜も嘉亨は八重の部屋を訪れ、朝方まで濃密な一刻(ひととき)を過ごしていった。最初は藩主が奥向きに渡った際に使う寝所を使っていたが、最近では八重の許を訪れ臥床(ふしど)を共にするようになっている。
 嘉亨は、初めて男を受け入れる八重の身体を労りながらも刻をかけてゆっくりと開き、女としての歓びを与えていった。幾たび閨に招いても、いまだにまだ開かぬ蕾といった風情の八重を嘉亨はかえって愛おしく思っているようだが、当の八重にしてみれば、良人と膚を合わせることにはなかなか慣れず、どうしても羞恥が先に立ってしまう。
 嘉亨の指や唇が素肌に触れる度、八重の白い膚は桜色に上気し、小さな火が点される。そして、丹念な愛撫を与えられることにより、その火は大きく烈しく燃え盛る官能の焔となり、八重の身を灼き尽くすのだ。
 昨夜の閨で烈しく良人に求められたことをふと思い出し、真昼間からはしたない空想に耽る自分を淫らな―と、自己嫌悪に陥る。
 もっとも、閨の中で痴態を晒すまいと、喘ぎ声を洩らすまいと唇を噛みしめて耐える八重を見ると、嘉亨は途端に意地悪になり、八重の豊かな乳房の先端をわざときつく吸ったり、円を描くように揉んだりして、八重が堪(こら)え切れず呻き声を上げるのを嬉しげに見ている。
―八重、きれいだ。
 と、あのいつもの眩しげな愛で見つめて耳許で囁くのだ。

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