天空(そら)に咲く花~あのひとに届くまで~
第10章 第四話〝空華(くうげ)〟・すれ違い
清冶郞を失意の淵に追いやり、むざと死なせてしまったのが我が身のせいだと、八重は我と我が身を責めた。清冶郞の想い出多きこの屋敷にいるのが辛くて、嘉亨には内緒で勝手に暇を取り、出ていったのだ。が、八重を諦め切れなかった嘉亨が裁縫の師匠の許に身を寄せていた八重を再三訪ね、求婚した。
嘉亨の熱意と師匠の励ましに背を押され、八重は清冶郞を失った哀しみを乗り越え、晴れて惚れた男と結ばれることができた。
今まで八重は清冶郞が父嘉亨と瓜二つだと思い込んできたが、あの掛け軸を見れば、やはり尚姫とも母子なのだと今更ながらに想わずにはいられない。それほど、よく似通っている。殊に柳眉や、花が綻んだような唇は。
嘉亨は屋敷中の女子たちが憧れる端整な面立ちで、清冶郞もまた幼いながらも一流の細工師が彫り上げたような整った顔立ちをしていた。かたや、尚姫はその花のような美貌が評判の野家の姫君だった。流石に美男美女で知られた両親から生まれただけあると、お付きの八重もかつては清冶郞の美少年ぶりにはしょっ中、眼を奪われっ放しの有り様であった。
考えみれば、親子なのだから、尚姫と清冶郞が似ていたとしても、いささかの不思議もない。八重が衝撃を受けたのは、何もそのことではなかった。部屋を出た八重は、ふらふらと夢遊病者のように廊下を歩いた。
向こう側から来た者と危うくぶつかりそうになったところで、ハッと正気に戻る。
「奥方さま、いかがなされましたか?」
耳に馴染んだ声に、八重は弾かれたように顔を上げた。
嘉亨の熱意と師匠の励ましに背を押され、八重は清冶郞を失った哀しみを乗り越え、晴れて惚れた男と結ばれることができた。
今まで八重は清冶郞が父嘉亨と瓜二つだと思い込んできたが、あの掛け軸を見れば、やはり尚姫とも母子なのだと今更ながらに想わずにはいられない。それほど、よく似通っている。殊に柳眉や、花が綻んだような唇は。
嘉亨は屋敷中の女子たちが憧れる端整な面立ちで、清冶郞もまた幼いながらも一流の細工師が彫り上げたような整った顔立ちをしていた。かたや、尚姫はその花のような美貌が評判の野家の姫君だった。流石に美男美女で知られた両親から生まれただけあると、お付きの八重もかつては清冶郞の美少年ぶりにはしょっ中、眼を奪われっ放しの有り様であった。
考えみれば、親子なのだから、尚姫と清冶郞が似ていたとしても、いささかの不思議もない。八重が衝撃を受けたのは、何もそのことではなかった。部屋を出た八重は、ふらふらと夢遊病者のように廊下を歩いた。
向こう側から来た者と危うくぶつかりそうになったところで、ハッと正気に戻る。
「奥方さま、いかがなされましたか?」
耳に馴染んだ声に、八重は弾かれたように顔を上げた。