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天空(そら)に咲く花~あのひとに届くまで~

第3章 雨の日の出来事

 そういえば、ここのところ、清冶郞があれほど厭がっていた薬をおとなしく呑んでいることに、八重は今更ながらに気付いた。
「それは感心なことにございますね」
 どのような理由でも良い、清冶郞が薬を進んで呑んでくれるようになれば十分だ。
 八重は、今はこれ以上何も余計なことを言わないでおこうと思った。
 今は清冶郞もまだ幼い。恋に恋する年頃というのか、少し年上の八重を姉のように慕っていて、その気持ちを恋心と勘違いしているのだろう。これは恋ではないのだと言い聞かせたところで、かえってムキになるばかりで、逆効果なのではないか。
 母親のおらぬせいで、年上の女性に憧れるようになってしまうのかもしれない。
 八重の心中を感じ取ったのか、清冶郞がますますむくれた。
「ほら、また、そうやって私を子ども扱いする」
 七歳といえば、十六の八重から見ても十分な子どもなのだが、八重は曖昧な微笑を浮かべて何も言わなかった。
 清冶郞は面白くないらしく、頬を膨らませたまま、押し黙ってしまう。
「さあ、若君さま、早速にございますが、そろそろ夕餉のお時間にございますよ。先刻の頼もしきお言葉をお聞きして、八重も安堵致しました。これよりお薬をお持ち致します」
 いつしか、長い初夏の陽も傾く時刻になっていた。蜜色の夕陽が畳に影を落としている。
 薬は食事の前に呑むのが通例である。八重が立ち上がると、清冶郞が溜息をついた。
「全く、八重には適わないな」

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