天空(そら)に咲く花~あのひとに届くまで~
第3章 雨の日の出来事
その翌日から、清冶郞は熱を出して寝込んだ。自分が連れ出してせいで、大切な若君が熱を出したと思い込んだ八重は、自責の念に駆られた。
すぐにお付きの小児科医が呼ばれ、その診立てでは
―軽いご風邪をお召しになっただけでございましょう。
ということであったが、熱は数日経っても下がらず、清冶郞は熱で赤い顔をして、呼吸も苦しそうだった。
八重はずっと傍に侍り、看病に当たった。
枕許に置いた盥に手ぬぐいを浸し、固く絞って丁寧に汗をぬぐう。唇が乾けば、水を含ませた。
だが、八重は医者ではない。ただ傍で清冶郞の熱が一刻も早く下がるように祈るしかなかった。
いっそのこと、お百度でも踏みたいと思ったけれども、そのようなときに若君の傍を離れることはできない。それでも何かをしたくて、八重は妙案を思いついた。
上屋敷の奥庭には、小さな社がある。何の神さまをおまつりしているのか定かではないが、奥女中たちは皆、何しから悩み事や願い事がある時、ひそかにその社に詣でていた。
同じ年頃の奥女中が許婚者の怪我が一日も早く治るようにと願掛けをしたところ、本当に軽くて済んだという話をその娘自身から聞いたこともあった。
その娘も八重と同様、商家の娘で行儀見習いにご奉公に上がった。一年後には祝言を控えた今年の春、大工の棟梁の息子だという許婚者が足場から落ちて、大怪我をしたという。およそ半月間、生死の境をさ迷ったが、この社に詣でた途端、嘘のように意識を取り戻した。その後は順調に回復し、今では以前のように父親と共に仕事に出かけているそうだ。
すぐにお付きの小児科医が呼ばれ、その診立てでは
―軽いご風邪をお召しになっただけでございましょう。
ということであったが、熱は数日経っても下がらず、清冶郞は熱で赤い顔をして、呼吸も苦しそうだった。
八重はずっと傍に侍り、看病に当たった。
枕許に置いた盥に手ぬぐいを浸し、固く絞って丁寧に汗をぬぐう。唇が乾けば、水を含ませた。
だが、八重は医者ではない。ただ傍で清冶郞の熱が一刻も早く下がるように祈るしかなかった。
いっそのこと、お百度でも踏みたいと思ったけれども、そのようなときに若君の傍を離れることはできない。それでも何かをしたくて、八重は妙案を思いついた。
上屋敷の奥庭には、小さな社がある。何の神さまをおまつりしているのか定かではないが、奥女中たちは皆、何しから悩み事や願い事がある時、ひそかにその社に詣でていた。
同じ年頃の奥女中が許婚者の怪我が一日も早く治るようにと願掛けをしたところ、本当に軽くて済んだという話をその娘自身から聞いたこともあった。
その娘も八重と同様、商家の娘で行儀見習いにご奉公に上がった。一年後には祝言を控えた今年の春、大工の棟梁の息子だという許婚者が足場から落ちて、大怪我をしたという。およそ半月間、生死の境をさ迷ったが、この社に詣でた途端、嘘のように意識を取り戻した。その後は順調に回復し、今では以前のように父親と共に仕事に出かけているそうだ。