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天空(そら)に咲く花~あのひとに届くまで~

第3章 雨の日の出来事

―恋は魔物だ。
 白妙と心中事件を起こす数日前、父が遺した科白の意味が今なら八重にもよく理解できる。
 知らぬ間に忍び寄り、ある日突然、心の隙間にするりと忍び込む―、それが恋というものだ。ひとたび囚われたなら、焔に魅入られた夜の蝶のように引き寄せられ、燃え尽きるまで灼き尽くされる。甘美で残酷な魔物だ。
 八重もまた、亡き父と同様、恋という魔物に捕らえられ、身動きできぬほどかんじがらめにされてしまったのかもしれない。
 夏の星座が紫紺の空で輝いている。
 八重は到底、手の届かぬ男だと知りながら、しばらくの間だけと自分に言い訳して、惚れた男の傍にいる幸せに浸っていた。

(第1話終わり・明日から第2話へ)               
☆ ここまでお読みいただき、ありがとうございます。

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