妖(あや)しの月に~光と闇の王~【第二部 光の王】
第3章 忍
どこまでも、どこまでも、堕ちてゆく。
やがて、清花は意識を手放し、その場に倒れた。
血だまりに仰のいて事切れた朴内官の傍らに寄り添うように倒れる清花の身体もまた、血にまみれていた。それは、彼女が生命賭けて愛した男の血だった。彼女が我が身を賭して守ろうとした男は、また、彼女を我が身を楯にして守り抜いたのだ。
事情を知らぬ者が見れば、清花もまた死んでいると勘違いするだろう。
義禁府長が小刀を振り上げる。その刃の先には意識を失って倒れ伏した清花がいた。
王は、感情の窺えぬ瞳で倒れた二人を眺め降ろしている。
「止めろ」
ただ、ひと言、王は言った。
義禁府長が一旦は振り上げた剣を降ろし、窺うような眼で王を見る。
「女の方はいかがなされますか? 宮殿に連れ帰りますか、それとも、この場で息の根を止めますか?」
それには応えず、王は踵を返す。
まるで鬼神のごとき烈しさで女を追いかけてきたことなど忘れ果てたかのように、後ろを振り向きもしない。
義禁府長が慌てて王の後を追う。他の兵たちも主に倣い、三々五々、その場を後にした。
生まれたばかりの新月が弱い光を投げかけ、あまりにも壮絶な光景を照らし出す。
その夜の中に朴内官の骸は内侍府の者たちによって宮外に運び出され、隠密裡に埋葬された。彼の死を惜しみ、憐れんだ内侍府長が知り合いの寺の住職に懇ろな供養を頼んだのだ。
彼と共に逃げようとした女を顧みようとした者はいなかった。女は後宮女官長の計らいで、女官たちの手でそのまま宮殿の門の外に打ち捨てられた。
やがて、清花は意識を手放し、その場に倒れた。
血だまりに仰のいて事切れた朴内官の傍らに寄り添うように倒れる清花の身体もまた、血にまみれていた。それは、彼女が生命賭けて愛した男の血だった。彼女が我が身を賭して守ろうとした男は、また、彼女を我が身を楯にして守り抜いたのだ。
事情を知らぬ者が見れば、清花もまた死んでいると勘違いするだろう。
義禁府長が小刀を振り上げる。その刃の先には意識を失って倒れ伏した清花がいた。
王は、感情の窺えぬ瞳で倒れた二人を眺め降ろしている。
「止めろ」
ただ、ひと言、王は言った。
義禁府長が一旦は振り上げた剣を降ろし、窺うような眼で王を見る。
「女の方はいかがなされますか? 宮殿に連れ帰りますか、それとも、この場で息の根を止めますか?」
それには応えず、王は踵を返す。
まるで鬼神のごとき烈しさで女を追いかけてきたことなど忘れ果てたかのように、後ろを振り向きもしない。
義禁府長が慌てて王の後を追う。他の兵たちも主に倣い、三々五々、その場を後にした。
生まれたばかりの新月が弱い光を投げかけ、あまりにも壮絶な光景を照らし出す。
その夜の中に朴内官の骸は内侍府の者たちによって宮外に運び出され、隠密裡に埋葬された。彼の死を惜しみ、憐れんだ内侍府長が知り合いの寺の住職に懇ろな供養を頼んだのだ。
彼と共に逃げようとした女を顧みようとした者はいなかった。女は後宮女官長の計らいで、女官たちの手でそのまま宮殿の門の外に打ち捨てられた。