妖(あや)しの月に~光と闇の王~【第二部 光の王】
第3章 忍
朴内官は真っすぐに王を見つめた。
「いや、それは、あなたの考え違いだ。殿下、私にこう言ってくれた女がいます。真実の男らしさとは、男根の有無などではなく、その心で決まるのだと、私の愛した女は私にそう言ってくれました」
その〝女〟というのが、そも誰を指すのかは王にも判るはずだ。
案の定、忽ち、王の顔色が怒りに染まった。
「ええい、我が生命を助けたと思うて、これまでの無礼の数々、大目に見てきたが、最早これまで。義禁府長、剣を貸せ」
はっと、傍らの義禁府長が自分の腰に佩(は)いた大剣を差し出す。
王はその大剣を受け取ると、鞘をはらった。
ギラリと刃が夜陰に鋭い光を放つ。
「や、止めて」
清花は悲痛な声を上げた。
駄目、この男(ひと)を殺さないで。私の大切な男を奪わないで。
清花がまろぶように駆け出す。
「来るな!」
咄嗟に身を挺して自分を守ろうとした清花の身体を朴内官が突き飛ばした。
その瞬間、閃光が閃いた。
鮮血が辺り一面に飛び散り、清花の視界を鮮やかな朱の色に染めた。
その虚ろな瞳に映じたのは、血の海の中、横たわる変わり果てた男の姿。
どうして、どうして。
清花は涙でぼやけた眼を動かし、憎い男を見つめた。
やっと、めぐり逢えた男だったのに。
誰よりも大切だと思えるほどの恋しい男。
「返して、返して! あの男(ひと)を返して」
涙が雨のように溢れ、頬を濡らす。
清花は〝返して〟と幾度も王に向かって絶叫した。
意識が遠のいてゆく。深くて暗い底なしの闇に堕ちてゆく。
「いや、それは、あなたの考え違いだ。殿下、私にこう言ってくれた女がいます。真実の男らしさとは、男根の有無などではなく、その心で決まるのだと、私の愛した女は私にそう言ってくれました」
その〝女〟というのが、そも誰を指すのかは王にも判るはずだ。
案の定、忽ち、王の顔色が怒りに染まった。
「ええい、我が生命を助けたと思うて、これまでの無礼の数々、大目に見てきたが、最早これまで。義禁府長、剣を貸せ」
はっと、傍らの義禁府長が自分の腰に佩(は)いた大剣を差し出す。
王はその大剣を受け取ると、鞘をはらった。
ギラリと刃が夜陰に鋭い光を放つ。
「や、止めて」
清花は悲痛な声を上げた。
駄目、この男(ひと)を殺さないで。私の大切な男を奪わないで。
清花がまろぶように駆け出す。
「来るな!」
咄嗟に身を挺して自分を守ろうとした清花の身体を朴内官が突き飛ばした。
その瞬間、閃光が閃いた。
鮮血が辺り一面に飛び散り、清花の視界を鮮やかな朱の色に染めた。
その虚ろな瞳に映じたのは、血の海の中、横たわる変わり果てた男の姿。
どうして、どうして。
清花は涙でぼやけた眼を動かし、憎い男を見つめた。
やっと、めぐり逢えた男だったのに。
誰よりも大切だと思えるほどの恋しい男。
「返して、返して! あの男(ひと)を返して」
涙が雨のように溢れ、頬を濡らす。
清花は〝返して〟と幾度も王に向かって絶叫した。
意識が遠のいてゆく。深くて暗い底なしの闇に堕ちてゆく。