妖(あや)しの月に~光と闇の王~【第二部 光の王】
第4章 第二部・生
東の空がわずかに明るくなってきた。
守尹は後ろを歩いてくる威(ウィ)承(スン)を振り返る。
「おい、早いところ、帰ろうぜ」
頭領光王の命令で仲間に繋ぎを取りにいっていた守尹は、一刻も早く塒(ねぐら)に帰って温かい寝床に潜り込みたかった。だが、夜通し守尹と歩き続けた妹の威承の脚取りは重い。
無理もないと思った。
〝仲間〟は都中に点在している。離れて暮らしているから、いちいち繋ぎを取るにも骨が折れるのだ。女の威承が疲れるのは当然といえば当然といえた。
大きな欠伸を噛み殺したその時、守尹は前方に誰かが倒れているのを見つけた。
「嘘だろ」
今日日、都には地方から流れてきた流民が溢れ返っている。夏の日照り続きで米の収穫高がそれでなくとも減少しているにも拘わらず、年貢はそれまでどおりどころか、例年以上に厳しく取り立てられる。食べてゆけなくなり、村や家を棄て都に来る農民は皆、都に行きさえすれば何とかなると思う。
だが、現実は甘くない。都に来たからといって、そうそう仕事が見つかるはずもなく、結局、彼等は家をも失い、行き倒れとなるのだ。
守尹がその朝、見つけたのも、そんな可哀想な女に相違なかった。
彼は倒れ伏している女に近づき、ヒッと声を上げた。
「兄ちゃん(オラボニ)、どうしたんだい?」
威承が慌てて駆け寄ってきて、また、声にならない悲鳴を上げる。
「こいつは酷(むご)いや」
まだ若い女が血まみれで倒れている。顔は地面に押しつけている体勢なので、表情までは判らない。
「まだ若い身空で不憫だねぇ」
着衣が乱れている。どうやら、陵辱され、殺された哀れな娘のようだ。
守尹は後ろを歩いてくる威(ウィ)承(スン)を振り返る。
「おい、早いところ、帰ろうぜ」
頭領光王の命令で仲間に繋ぎを取りにいっていた守尹は、一刻も早く塒(ねぐら)に帰って温かい寝床に潜り込みたかった。だが、夜通し守尹と歩き続けた妹の威承の脚取りは重い。
無理もないと思った。
〝仲間〟は都中に点在している。離れて暮らしているから、いちいち繋ぎを取るにも骨が折れるのだ。女の威承が疲れるのは当然といえば当然といえた。
大きな欠伸を噛み殺したその時、守尹は前方に誰かが倒れているのを見つけた。
「嘘だろ」
今日日、都には地方から流れてきた流民が溢れ返っている。夏の日照り続きで米の収穫高がそれでなくとも減少しているにも拘わらず、年貢はそれまでどおりどころか、例年以上に厳しく取り立てられる。食べてゆけなくなり、村や家を棄て都に来る農民は皆、都に行きさえすれば何とかなると思う。
だが、現実は甘くない。都に来たからといって、そうそう仕事が見つかるはずもなく、結局、彼等は家をも失い、行き倒れとなるのだ。
守尹がその朝、見つけたのも、そんな可哀想な女に相違なかった。
彼は倒れ伏している女に近づき、ヒッと声を上げた。
「兄ちゃん(オラボニ)、どうしたんだい?」
威承が慌てて駆け寄ってきて、また、声にならない悲鳴を上げる。
「こいつは酷(むご)いや」
まだ若い女が血まみれで倒れている。顔は地面に押しつけている体勢なので、表情までは判らない。
「まだ若い身空で不憫だねぇ」
着衣が乱れている。どうやら、陵辱され、殺された哀れな娘のようだ。