妖(あや)しの月に~光と闇の王~【第二部 光の王】
第4章 第二部・生
威承が同情的に言うのに、守尹は声を潜めた。
「こんな場面を役人どもに見られてみろ。痛くもない腹を探られて、おまけに人殺しに仕立て上げられちまうのが関の山だ。さっさと行こうぜ、威承」
言葉どおり、守尹は行き倒れの方を振り向きもせず、足早に通り過ぎてゆく。
「ちょっと待ってよ、兄ちゃん。この娘、まだ生きてるよ」
妹の素っ頓狂な言葉に、守尹は渋々脚を止めた。
仮にも義賊集団〝光の王〟の副頭領格ともあろう自分がまだ息のある行き倒れの女を見棄ててはゆけない。
「仕方ねえな」
守尹は女を軽々と抱きかかえると、女の血で自分の衣服までが汚れるのに顔をしかめる。
兄のしかめ面を見た威承が笑った。
「何だよ、今更。どうせ、少々汚れたって判らないくらいの襤褸着てるくせに」
「行くぞ」
守尹は減らず口を叩く妹に憮然として言った。
まだ都が眠りの底にたゆたう夜明け前、普段は賑やかな大通りにも人の気配はない。
彼は娘を〝光の王〟の塒まで運んだ。
不思議な縁で義賊団に拾われた娘こそが具清花であった―。
そこで娘は三日三晩眠り続けた。
〝光の王〟に属する医者くずれの老人が急遽呼ばれた。
「この娘は瀕死の怪我をしているわけでもない。重い病に罹っているわけでもない。なのに、こうして昏々と眠り続けるのは、心が生きることを拒否しておるからじゃ」
そのひと言で、〝光の王〟の頭領光王は、娘の面倒を見ることに決めた。
「こんな場面を役人どもに見られてみろ。痛くもない腹を探られて、おまけに人殺しに仕立て上げられちまうのが関の山だ。さっさと行こうぜ、威承」
言葉どおり、守尹は行き倒れの方を振り向きもせず、足早に通り過ぎてゆく。
「ちょっと待ってよ、兄ちゃん。この娘、まだ生きてるよ」
妹の素っ頓狂な言葉に、守尹は渋々脚を止めた。
仮にも義賊集団〝光の王〟の副頭領格ともあろう自分がまだ息のある行き倒れの女を見棄ててはゆけない。
「仕方ねえな」
守尹は女を軽々と抱きかかえると、女の血で自分の衣服までが汚れるのに顔をしかめる。
兄のしかめ面を見た威承が笑った。
「何だよ、今更。どうせ、少々汚れたって判らないくらいの襤褸着てるくせに」
「行くぞ」
守尹は減らず口を叩く妹に憮然として言った。
まだ都が眠りの底にたゆたう夜明け前、普段は賑やかな大通りにも人の気配はない。
彼は娘を〝光の王〟の塒まで運んだ。
不思議な縁で義賊団に拾われた娘こそが具清花であった―。
そこで娘は三日三晩眠り続けた。
〝光の王〟に属する医者くずれの老人が急遽呼ばれた。
「この娘は瀕死の怪我をしているわけでもない。重い病に罹っているわけでもない。なのに、こうして昏々と眠り続けるのは、心が生きることを拒否しておるからじゃ」
そのひと言で、〝光の王〟の頭領光王は、娘の面倒を見ることに決めた。