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妖(あや)しの月に~光と闇の王~【第二部 光の王】

第1章 闇

 その嫡男猛善(メンソン)はその名にふさわしく猛虎のような荒々しい気性で、文官といよりは一見すると武官に見えるほど体軀も立派な偉丈夫であった。かといって、武芸一点張りの武辺者というわけでもなく、教養も備えた知識人であった。
 その猛善が昼日中から女色に耽り、酒浸りの日々を送る王に進言をしたのである。
―およそ君主たるものは清貧に甘んじ、民の見本となるべき生活を送らねばなりませぬ。然るに、現在、国王殿下は酒に溺れ、女人の色香に迷い、実に怠惰な日々を送っておいでになります。かつて稀代の暗君と呼ばれた燕(ヨン)山(サン)君(グン)もまた酒色に溺れる生活に頭までどっぷりと浸かり、連綿と続いた朝鮮王朝を窮地に陥れるという大罪を犯しました。彼(か)の王がどのような最期を迎えたかは、殿下もよくご存じかと思います。
 この発言に、王は激怒した。
―猛善は、予をあの痴れ者として名を残す燕山君と同じだと申すか!
 ちなみに燕山君は廷臣たちの反撃に遭い、謀反によって廃位された。
 猛善は直ちに捕らえられ、即日、大逆罪によって死を賜った。それも礼(イエ)曹(ジヨ)判(パン)書(ソ)を務めた者にはおよそふさわしくない、市中引き回しの上、車裂きという酷い刑罰を下された。
 その父英善は息子の監督不行届という名目で職を奪われ、地方に流罪。既に齢六十を超していた英善は失意の中に流刑先で客死した。
 陽徳山君は孫氏とは血の繋がりはなく、前王妃は確かに英善の娘ではあったが、子のないまま亡くなっている。陽徳山君は側室の所生であった。

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