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妖(あや)しの月に~光と闇の王~【第二部 光の王】

第1章 闇

 確かに猛善の言葉は臣として行き過ぎたところはあったかもしれない。しかし、内容としては全く理に適ったものであり、むしろ、誰もが暴君を怖れて何も言えないで王の機嫌ばかり窺っている中では実に勇気ある行為といえた。誰もが口にこそ出さなかったが、陽徳山君のこの孫英善、猛善親子に対する仕打ちがあまりにも酷(むご)すぎ、非は王の方にあると認識していた。
 その王でさえもが朴内官には一目置き、無二の信頼を寄せているという。かといって、朴内官はけして他のあまたの朝廷の大臣たちのように王の気随気儘に迎合するわけではない。言うべきことは言い、正すべきことは正した。他の者であれば、ここまで言えば即刻首を刎ねられると思うような進言でも、朴内官であれば咎めはなかった。
 王がここまで朴内官を信頼するのには、それなりの理由がある。陽徳山君には、幼時から持病があった。引きつけである。王の侍医は、王のあまりにも起伏の烈しい感情は、恐らくはこの持病から来ているのだと見当をつけているが、あまりにも畏れ多くて公言できるものではない。
 要するに、生まれつきの精神異常とでもいえようか。しかも、引きつけの発作を起こす度に、王の狂気じみた行動はエスカレートしてゆく。侍医たちは何とか王の発作を止めようと様々な治療法を試みたが、それはことごとく徒労に終わった。
 今から八年前、王が例の発作を起こした。当時、王は十二歳で、突如として亡くなった先王の跡を継いでまもなかった。その頃、朴内官もまた小宦から一人前の内侍として独り立ちしたばかりであった。
 朴内官は王より三歳年長の十五歳になっていた。既にその頃より王は春機発動期に入っていたらしい。自分よりは数歳年上の女官たちを相手に白昼から戯れていることが多かった。あるときなど、若い女官の部屋に昼間、入り浸っているところを提調尚宮(チェジヨサングン)に見つかり、後宮中が大騒ぎになったこともある。

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