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妖(あや)しの月に~光と闇の王~【第二部 光の王】

第4章 第二部・生

 例えば、罪のない若い娘を次々に攫っては、陵辱した上に殺すという両班の若者グループ。また、例えば、雇い人を働かせるだけ働かせ、給金を支払わず、彼が抗議すると、用心棒たちに寄ってたかって彼を滅多打ちにさせ、挙げ句に殺してしまった商人、などなど。
 光王が憎むのは、そうした罪のない庶民を泣かせるあくどい輩だけだ。
 十八になる威承は守尹の二つ違いの妹だ。〝光の王〟の四分の一くらいが女だという。二人は物心つくかつかぬ頃に両親を失い、掏摸やかっ払いをして生きてきた。ある日、光王の懐を狙った守尹の腕を光王がねじ上げ、〝俺の手下にならないか?〟と誘った。
 どうやら、威承は光王を好きらしい。
「あんたが眠ってる時、どうしても賢法の作った薬をあんたが飲まなくてさ。あたしもほとほと手を焼いたんだよ。このままじゃ、本当に死んじまうって心配してたら、光王があんたに口移しで薬を飲ませたんだよ」
 気を失っている間のことは何も記憶にない。威承から大真面目な顔で聞かされ、清花は顔から火が出そうになった。
 幾ら意識がないときとはいえ、男から口移しで薬湯を呑まされるなんて、恥ずかしいこと、この上ない。
「あたしは、正直、あんたが羨ましかったんだよ。光王に口移しで薬を飲ませて貰えるんなら、あたしも病気になりたいって言ったら、後で兄ちゃんに物凄く怒られたよ」
「ねえ、もしかして、威承って、光王のことが好きなの?」
「馬鹿だねえ、そんなことをあからさまに聞かないでくれよ。これでも、花も恥じらう十八の娘だよ?」
 威承は怒ったように言ったが、その頬が真っ赤になっていた。
 そのことについて後日、光王に礼を言うと、彼は事もなげに言った。

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