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妖(あや)しの月に~光と闇の王~【第二部 光の王】

第4章 第二部・生

 中にはお屋敷の前を通りかかった時、若い女中が出てきて、
―奥方さまがそなたから何か買いたいゆえ、品を見せて欲しいと仰せだ。
 と尊大な態度で言うときもある。
 そんな時、光王は愛想良く女中にお屋敷に案内して貰う。奥方が求めているのは、光王の商う品ではなく光王自身だったりすることが多いのだが、彼は奥方の申し出を突っぱねもせず、後腐れのない情事の相手をして、大枚を巻き上げてくるのだった。
 光王が一体、どれだけの数の女と拘わりを持っているのか。
 清花は知らないが、彼は女と寝ることに、心は必要ないと割り切っているようだった。
 いつだったか、守尹と光王が二人だけで話しているのを耳にしてしまったのだ。あれは、確か、守尹があまり両班の奥方とは拘わり合いにならない方が良いと言っていたのだった。光王本人は後腐れがないつもりでも、不用意に拘われば、どこから光王の正体が知れるか判らないから、と。
 その時、光王が言っていた。
―愛してもおらぬ女と寝るのに、心など必要ないさ。相手は俺の身体といっときの火遊びを求め、俺はそれに見合う対価で相手をしてやる。心配するには及ばない。奥方たちは旦那に浮気がバレるのを何より怖れている。あいつらから俺のことが外に洩れる危険はない。
 あの科白を聞いた時、光王は、女を抱くときでさえ、どこまでも醒め切っているのだと軽い衝撃にも似た愕きを感じたものだ。むろん、二人は清花が外で話を聞いていたことなど知るはずもない。
 光王の塒は都の外れにある。賑やかな大通りを抜けて、小さな川が流れているその先だ。
 ここら界隈は昼間でも人通りが少なくて、物騒だといえば物騒だけれど、その分、訳ありの連中が身を隠すのには丁度良い。

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