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妖(あや)しの月に~光と闇の王~【第二部 光の王】

第4章 第二部・生

 まるで欠けた櫛の歯のように、ぽつぽつと民家や小さな店が建っている。川には小さな橋がかかっているが、この橋を渡ってこちら側に来る暇な人間は実のところ、そうそうはいない。
 塒はごく普通の庶民の家だ。それこそ全部合わせても、煮炊きのできる厨房代わりの土間の他に、三部屋しかない。威承と清花が二人で一つを使い、光王と守尹はそれぞれ別の部屋で起居している。他の連中が転がり込んでくるときは、大抵、守尹の部屋で雑魚寝だ。だから、守尹は
「何で、俺だけが狭苦しい部屋で野郎どもと寝なきゃなんねえんだよ。なっ、光王。俺は清花と一緒の部屋が良いや」
 そんな戯れ言を口にしては、光王に睨まれている。しかし、守尹はけして女に無体をしかけるような男ではないことは知れていた。
 それに、彼には恋人がいるらしい。相手は妓楼の女―つまり妓生(キーセン)で、守尹は数日に一度はその女の許で夜を過ごすから、塒にも帰ってこない。これは威承から聞いた話で、あくまでも守尹には内緒という約束になっている。
 威承は近くの飯屋で働いていて、昼は塒にはいない。むろん、こちらも職人や人足といった庶民相手の店で、多少でも金のある者ならけして脚を踏み入れない類の小さくて薄汚れた店である。
 守尹は何をしているのかといえば、光王と共に行商をしているのだが、こちらは光王ほど商売熱心ではなく、途中で姿を消しては、どこかで油を売って、よく光王に叱られている。威承も守尹も育った境遇など微塵も感じさせず、明るいお人好しの兄妹だった。
 清花が塒に居着くようになって、三ヵ月ほどが経ったある日のことだ。普段、塒にいるのは清花だけで、皆、出払っているのが常だが、その日に限って、光王が昼過ぎに帰ってきた。

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