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妖(あや)しの月に~光と闇の王~【第二部 光の王】

第4章 第二部・生

 後に彼女を診察した賢法は清花が生娘だと証明はしたものの、誰かに陵辱されかけたことは確かだった。身体中の至る場所に強い接吻の跡が刻まれており、また、下半身は指でひどくかき回され、傷ついていた。彼女が相当に乱暴な扱いを受けたのは明らかで、陵辱しようとした男は、自分の欲望に任せて清花に酷い責め苦を与えたのだ。
 彼女の衣服に付いていたのは、彼女自身の血ではなかった。だとすれば、彼女が宮殿で何らかの事件に巻き込まれたと推察するのは難しくはなかった。
 しかし、光王も誰もが清花自身にそのことを告げてもいないし、訊ねてもいない。触れるにはあまりに酷すぎる過去の傷であった。
 身体の傷は月日が経てば、治癒するけれど、心に受けた傷はなかなか癒えない。ゆえに、清花が自ら話そうという気になるまで、光王にせよ守尹、威承兄妹にせよ、この話題にはけして触れないようにしてきた。
「美味しかったぞ。また、作ってくれ」
 そう言って立ち上がり、部屋を出てゆきかけた光王の背中に向かって、清花は言った。
「殺したい人がいるの。手を貸してくれないかしら」
 刹那、光王の動きがピタリと止まった。
「そいつは誰だ?」
 当然の問いであったろう。殺す相手がどこの誰かも判らないで、手を貸すも何もない。
 振り返りもせずに問うた光王に、清花は言った。
「私の愛した男を殺した奴。―そいつは、この国の王よ。彼は私を守ろうとして死んだ」
「そうか」
 彼から返ってきたのは、ただそれだけだった。
 光王の中ですべての辻褄が合った。
 清花を欲情の赴くままに陵辱しようとした身勝手な男。

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