妖(あや)しの月に~光と闇の王~【第二部 光の王】
第4章 第二部・生
「清花、清花。光王が呼んでるよ~」
威承の呼び声が聞こえてくる。
一夜明けた朝のこと。威承の言葉が何よりの薬になったのか、悪夢を見た後にも拘わらず、朝までぐっすり眠れた。いつもなら、夜通し悶々と寝床の中で寝苦しい夜を過ごすのが当たり前なのに、これは極めて珍しいことだ。
ここでの時間は、とても優しく流れる。それは多分、住人のせいだろう。ぶっきらぼうな光王、お調子者の守尹、破天荒でちゃっめっけたっぷりの威承。
光王も守尹も威承も皆、形は違うけれど、それぞれのらしいやり方で清花に思いやりを示してくれる。たとえ〝盗賊〟とは呼ばれてはいても、清花が知る宮殿に暮らしていた人たちよりは、はるかに心温かく優しい人たちだ。
何より彼らは血の通った人間らしい。宮殿の人々はどこかに感情を置き忘れてしまったかのようなところがあった。一つには、感情を麻痺させねば、宮殿という伏魔殿では生きてゆけないということもあったには違いない。
既に朝飯は終わり、守尹は商いに出かけ―どうせまた、どこかでサボって、光王から大目玉を喰らうのだ―、威承もこれから飯屋に出かけるところだ。
「はーい、今行きます」
光王が呼んでいる。これから剣の稽古をつけて貰うのだ。清花は雑念を振り切るように、勢いよく立ち上がった。
「ター、ター」
気合いを帯びた声が響きわたる。
ここは、塒の近くの荒れ寺である。かつては住職もいて、ちゃんと掃除もされていたらしいが、今は無人だ。御堂も荒れ果て、庭も丈高い青草が生い茂るに任せている。
威承の呼び声が聞こえてくる。
一夜明けた朝のこと。威承の言葉が何よりの薬になったのか、悪夢を見た後にも拘わらず、朝までぐっすり眠れた。いつもなら、夜通し悶々と寝床の中で寝苦しい夜を過ごすのが当たり前なのに、これは極めて珍しいことだ。
ここでの時間は、とても優しく流れる。それは多分、住人のせいだろう。ぶっきらぼうな光王、お調子者の守尹、破天荒でちゃっめっけたっぷりの威承。
光王も守尹も威承も皆、形は違うけれど、それぞれのらしいやり方で清花に思いやりを示してくれる。たとえ〝盗賊〟とは呼ばれてはいても、清花が知る宮殿に暮らしていた人たちよりは、はるかに心温かく優しい人たちだ。
何より彼らは血の通った人間らしい。宮殿の人々はどこかに感情を置き忘れてしまったかのようなところがあった。一つには、感情を麻痺させねば、宮殿という伏魔殿では生きてゆけないということもあったには違いない。
既に朝飯は終わり、守尹は商いに出かけ―どうせまた、どこかでサボって、光王から大目玉を喰らうのだ―、威承もこれから飯屋に出かけるところだ。
「はーい、今行きます」
光王が呼んでいる。これから剣の稽古をつけて貰うのだ。清花は雑念を振り切るように、勢いよく立ち上がった。
「ター、ター」
気合いを帯びた声が響きわたる。
ここは、塒の近くの荒れ寺である。かつては住職もいて、ちゃんと掃除もされていたらしいが、今は無人だ。御堂も荒れ果て、庭も丈高い青草が生い茂るに任せている。