テキストサイズ

妖(あや)しの月に~光と闇の王~【第二部 光の王】

第4章 第二部・生

 この庭がしばしば、剣術の稽古に使われた。
 清花は剣を可能な限り自分の身体に引き寄せ、相手との間合いを計る。
 少し離れ、光王がやはり同様に剣を持って対峙している。 
 しかしながら、彼の方はただ木刀を無造作に片手で持っただけで、その場に突っ立っている。対する清花だけが真剣だというのも、何か端から侮られているような気がしないでもない―、というよりは、光王は明らかに剣の勝負にかけては自分を見下している。
 まるで緊張感の欠片もなければ、ちょっと見には、やる気がないのかと思ってしまうほどの余裕だ。
 光王の美しい顔が誘うようにいっそう艶(つや)めいた微笑を刻む。
 刹那、まるで、床の中で情を交わしたばかりの女を見つめるように色香溢れる表情に、一瞬、圧倒されるほどの物凄い殺気が閃いた。
 空気がピンと張りつめ、清花の小さな身体に緊張が漲る。
―隙あり。
 清花はその瞬間、よりいっそう高らかな声を上げ、剣を振り上げて光王目がけてぶつかっていった。
 が、光王は清花の剣を難なく木刀で受け止める。ギリと二つの剣が合わさり、音を立てた。
 ほどなく、光王の木刀が清花の真剣をはじき飛ばし、跳ねあげられた剣は一旦宙高く飛ばされ、緩く弧を描いて落下していった。
 清花は茫然として、その場に立ち尽くすしかない。落ちた剣を取りにゆく気力すら湧いてこなかった。
「愚か者ッ、相手の挑発にまんまと乗って、どうする。あれほど言い聞かせたことを忘れたか? 勝負は先に心を乱した方が負けだと」
「もう一度」
 清花は語気も荒く叫ぶと、立ち上がった。

ストーリーメニュー

TOPTOPへ