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妖(あや)しの月に~光と闇の王~【第二部 光の王】

第4章 第二部・生

 落ちた剣を拾い、再び構えの姿勢を取る。
 光王が眼を眇める。眼を細めているのは、何も五月の陽光が眩しいからだけではあるまい。余裕たっぷりに見せながら、早くも相手との間合いを計っているのだ。
 荒れ放題の庭には、草いきれが周辺に立ち込めている。燃えるような夏草の中に何故か、一輪だけ白牡丹が忘れ去られたようにひっそりと咲いていた。そこだけが、荒れた庭の中で別世界のように思える。
 清々しい緑と白を背景に木刀を掲げる光王のすっとした立ち姿は、まさに絵の中から抜け出してきたかのごとく美しい。
 思わず見惚れてしまいそうになるほどだ。
 清花は余計な雑念を追い払うかのように小さく首を振り、息を深く吸う。
「えーい」
 ひときわ大きな声で己れを鼓舞しながら、彼女は再び光王に向かって飛びかかる。
 だが、またしても、清花の刀は容易く交わされ、弾き飛ばされてしまう。
「もう一度!」
 清花はそれでも挫けもせず再度、挑戦を試みるが、今度は刀を振り下ろすどころか、ひょいひょいと光王が身を後退させて、逆に細腕を掴まれ、ねじ上げられてしまった。
 清花は唇を痛いほど噛みしめる。これでは、あまりにも惨めだ。光王はまるで幼子を相手にするかのように、刀すら使わず清花を打ち負かせる。
「もう一度!」
 清花は挫けようとする自分を懸命に叱咤した。
 だが、今度もまた、光王に振り下ろそうとした刀は跳ねあげられてしまった。
「もう一度!」
 組み伏せられても、何度でも刀を振り上げ、かかってゆく。
「そんなヤワな腕では、王どころか後宮の床下を這い回る鼠一匹斬れぬぞ」

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