妖(あや)しの月に~光と闇の王~【第二部 光の王】
第4章 第二部・生
笑いを含んだ声が嘲笑の響きを帯びているような気がして、清花は面を上げる。
「もう一度」
わざとらしい溜息が聞こえてきた。
「もう今日は止めておけ。お前の体力が保たない」
「大丈夫だから、光王、もう一度だけ」
清花が縋るような視線を向けると、光王は今度は真顔になって溜息をついた。
「もう息が上がっているぞ? 気持ちは判るが、無理をして身体を壊してしまっては元も子もないだろう」
清花は唇を噛み、うなだれる。緩慢な動作で庭の片隅に落ちた剣を拾いにいった。
ふいに身体中の力が抜け、清花はへなへなとその場にくずおれた。
あまりに情けなくて、涙も出ない。
こんな有様で、本当にあの男(ひと)の仇を討つことができるのか。
光王の言うとおりだ。今の自分の剣では、後宮の床下を這い回る鼠さえ斬ることはできないだろう。
ふと、滲んだ視界に清(すが)しい花の色が映った。
先刻、光王の傍に咲いていた白牡丹だ。
―この花を眺めていると、具女官を見ているような気がする。
かつて、あの男はそう言った。遠い日、二人だけの記憶。幸せだった頃の。
思わず熱いものが込み上げ、清花は、いっそうきつく唇を噛む。あまりに強く噛んだためか、口の中に血の味がひろがった。
「清花」
いつしか光王が傍らに立っていた。
清花はのろのろと顔を動かし、光王を見上げる。丁度彼の立っている場所は逆光になり、その表情は定かではなかった。
「清花」
光王はもう一度、彼女の名を呼んだ。心の奥底にまで滲み入るような静かな声音だった。
「もう一度」
わざとらしい溜息が聞こえてきた。
「もう今日は止めておけ。お前の体力が保たない」
「大丈夫だから、光王、もう一度だけ」
清花が縋るような視線を向けると、光王は今度は真顔になって溜息をついた。
「もう息が上がっているぞ? 気持ちは判るが、無理をして身体を壊してしまっては元も子もないだろう」
清花は唇を噛み、うなだれる。緩慢な動作で庭の片隅に落ちた剣を拾いにいった。
ふいに身体中の力が抜け、清花はへなへなとその場にくずおれた。
あまりに情けなくて、涙も出ない。
こんな有様で、本当にあの男(ひと)の仇を討つことができるのか。
光王の言うとおりだ。今の自分の剣では、後宮の床下を這い回る鼠さえ斬ることはできないだろう。
ふと、滲んだ視界に清(すが)しい花の色が映った。
先刻、光王の傍に咲いていた白牡丹だ。
―この花を眺めていると、具女官を見ているような気がする。
かつて、あの男はそう言った。遠い日、二人だけの記憶。幸せだった頃の。
思わず熱いものが込み上げ、清花は、いっそうきつく唇を噛む。あまりに強く噛んだためか、口の中に血の味がひろがった。
「清花」
いつしか光王が傍らに立っていた。
清花はのろのろと顔を動かし、光王を見上げる。丁度彼の立っている場所は逆光になり、その表情は定かではなかった。
「清花」
光王はもう一度、彼女の名を呼んだ。心の奥底にまで滲み入るような静かな声音だった。