妖(あや)しの月に~光と闇の王~【第二部 光の王】
第4章 第二部・生
「良いか、機会は一度だけしかない。失敗は許されないんだ。そのことだけは十分心しておけ」
光王の言葉は辛辣で一見、突き放すような物言いではあったけれど、彼が心から自分を思っての言葉だとは判っている。
逞しい腕が差しのべられ、清花は弾かれたように顔を上げた。
光王が笑っている。まるで仏さまが降臨したような―口はばったいけれど、神々しいほどの眩しさ、美しさだ。
不思議だと思う。光王は顔だけを見れば、そこら辺の女(むろん、その中には清花も含まれる)よりよほど綺麗なのに、体軀はやはり男のものだ。腕だって逞しくて太いし、胸板も愕くほど厚い。彼がよく訓練された武人であるからなのでもあろうが、光王ほど―女よりも美しい男が誰よりも屈強な体を持つというのも面白い。
―俺の婆さんは、外国人だったっていうぜ。
いつだっか、光王がポツリとそんなことを洩らしたことがあった。あまり自分について語りたがらない彼にしては稀有なことであった。
どうやら、彼の祖母は漂着した商船に乗っていた外国人だったらしい。商人だった父と母と共に商船に乗り込んだものの、嵐に遭い、船は遭難した。助かったのは彼女一人だけだったという。祖母は生きるために妓生となった。当時、都でも蒼い眼、金髪の遊女は珍しく、両班の旦那たちがこぞって彼女を敵娼にしたがった。
その中、祖母は身籠もり、月満ちて女児を生み落とした。
―父親が誰かも判らないような娘さ。
と、光王はいつになく自棄のように言った。
そして、それが光王の母親だった。遠い異国での苛酷な日々で祖母は身体を壊し、若くして逝った。残された娘は妓楼で育てられ、やはり妓生となった。
光王の言葉は辛辣で一見、突き放すような物言いではあったけれど、彼が心から自分を思っての言葉だとは判っている。
逞しい腕が差しのべられ、清花は弾かれたように顔を上げた。
光王が笑っている。まるで仏さまが降臨したような―口はばったいけれど、神々しいほどの眩しさ、美しさだ。
不思議だと思う。光王は顔だけを見れば、そこら辺の女(むろん、その中には清花も含まれる)よりよほど綺麗なのに、体軀はやはり男のものだ。腕だって逞しくて太いし、胸板も愕くほど厚い。彼がよく訓練された武人であるからなのでもあろうが、光王ほど―女よりも美しい男が誰よりも屈強な体を持つというのも面白い。
―俺の婆さんは、外国人だったっていうぜ。
いつだっか、光王がポツリとそんなことを洩らしたことがあった。あまり自分について語りたがらない彼にしては稀有なことであった。
どうやら、彼の祖母は漂着した商船に乗っていた外国人だったらしい。商人だった父と母と共に商船に乗り込んだものの、嵐に遭い、船は遭難した。助かったのは彼女一人だけだったという。祖母は生きるために妓生となった。当時、都でも蒼い眼、金髪の遊女は珍しく、両班の旦那たちがこぞって彼女を敵娼にしたがった。
その中、祖母は身籠もり、月満ちて女児を生み落とした。
―父親が誰かも判らないような娘さ。
と、光王はいつになく自棄のように言った。
そして、それが光王の母親だった。遠い異国での苛酷な日々で祖母は身体を壊し、若くして逝った。残された娘は妓楼で育てられ、やはり妓生となった。