妖(あや)しの月に~光と闇の王~【第二部 光の王】
第4章 第二部・生
貼り紙はすぐに役人の手によって撤去されたが、翌日にはまた同じものが元の場所に貼られていた。
光王自身がそのような馬鹿げたことをするはずはない。彼は自分のなした行為を殊更誇らしげに宣言したり、はたまた自分が〝真の王〟だと救世主のごとき英雄に祭りあげられるのを嫌っている。
しかし、昔から民の声は天意でもあるという。どこの誰が考えたかは判らないこの抗議文は当時の世相を余すところなく表しており、いかに陽徳山君の治世が危ういものであったかを物語る。
果たして、この抗議文を王自身が読んだかどうかは定かではないが、この後も王は相変わらず大勢の愛妾と昼日中から淫らな行為に耽り、民の貧困など眼に入らぬかのように奢侈な生活にどっぷり浸かっていた。
清花は光王の生い立ちについて詳しくは知らない。九つまでは妓楼にいたけれど、女将や使用人に苛められ、虐待されるのが嫌で飛び出したと彼は淡々と語った。
それから後、彼がどこで何をしているのか―、それは訊ねてはならないような気がした。
しかし、彼が言い尽くせぬ苦労をしてきたことだけは判る。痛みを知るからこそ、光王はあんな静かな瞳をしているのだ。そう、かつて、清花の恋人朴壮烈がそうであったように。
清花はその後も長い間、御堂に籠もっていた。
光王自身がそのような馬鹿げたことをするはずはない。彼は自分のなした行為を殊更誇らしげに宣言したり、はたまた自分が〝真の王〟だと救世主のごとき英雄に祭りあげられるのを嫌っている。
しかし、昔から民の声は天意でもあるという。どこの誰が考えたかは判らないこの抗議文は当時の世相を余すところなく表しており、いかに陽徳山君の治世が危ういものであったかを物語る。
果たして、この抗議文を王自身が読んだかどうかは定かではないが、この後も王は相変わらず大勢の愛妾と昼日中から淫らな行為に耽り、民の貧困など眼に入らぬかのように奢侈な生活にどっぷり浸かっていた。
清花は光王の生い立ちについて詳しくは知らない。九つまでは妓楼にいたけれど、女将や使用人に苛められ、虐待されるのが嫌で飛び出したと彼は淡々と語った。
それから後、彼がどこで何をしているのか―、それは訊ねてはならないような気がした。
しかし、彼が言い尽くせぬ苦労をしてきたことだけは判る。痛みを知るからこそ、光王はあんな静かな瞳をしているのだ。そう、かつて、清花の恋人朴壮烈がそうであったように。
清花はその後も長い間、御堂に籠もっていた。