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妖(あや)しの月に~光と闇の王~【第二部 光の王】

第4章 第二部・生

 ひと月後、清花と光王は馬で郊外の山まで出かけた。むろん、これもまた訓練の一環であることは言うまでもない。
 都の外に出ると、ガラリと雰囲気が違ってくる。正直言うと、清花はこの野外訓練―と彼女は呼んでいる―が嫌いではなかった。
 光王と二人だけで思う存分、汗を流し、鍛錬に明け暮れる時間は何より愉しく、貴重なものだ。あまりに充実していて、自分が重い復讐を抱えていることさえ忘れてしまいそうになる。
 山に籠もるのは主に矢術の訓練が目的だ。
 光王は剣だけでなく弓の方も卓越していた。ひとたび眼を付けた獲物をけして逃すことはない。どれほど素早い獣でも、彼に標的を定められれば、命運は尽きたも同然だ。
 光王は無闇に獣を射ることはしなかったが、獲物を狩るときは実に淡々としていた。その全く感情の読めぬ表情から、自ら屠る獣を憐れんでいるのどうかは判らない。
 恐らく、〝盗賊光王〟となったときの彼はあんな静かすぎるほどの瞳をしているのではないか。清花はそう思っていた。
 殺生をしたいからではない、ただ狩らねばならないから、矢を射かけるのだ。盗みをしたいからではない、ただ盗まねばならないから、盗むのだ。彼の静まり返った双眸は、そう語っているように見えた。
 一日目、光王が大きな雄鹿を見事に一撃で仕留めた後、清花の番になった。
 むろん、二人ともに騎乗している。
 丁度、捕まえて下さいと言わんばかりに猪が眼前に姿を見せた。しかも、猪は悠々とした脚取りで、清花の前を通り過ぎてゆく。
 まるで、お前のような小娘になど殺られはしないぞ―とでも言うような挑戦的な態度にも見える。

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