妖(あや)しの月に~光と闇の王~【第二部 光の王】
第4章 第二部・生
清花がコクンと頷くと、光王は〝そうか〟と無表情に言った。いつも携帯している小さな酒瓶の酒を口に含むと、清花の傷に吹きかける。消毒の代わりである。それから、自分の服の袖を引き裂くと脹ら脛に巻き、応急処置を済ませた。
光王の言は正しかった。脹ら脛の傷は見かけほど深刻なものではなく、包帯も直に必要なくなった。
その夜、光王と枕を並べて眠りながら、清花は何度も昼間の出来事を思い出し、何故か光王の規則正しい寝息が気になって眠れなかった。
山に入って二日めの昼下がり、既に光王は猪二頭、鹿、それに雉三羽を仕留めていた。
射止めた獣は持って帰り、住人の食事に供される。猪鍋は守尹の大好物であった。
「もう俺はこれくらいで良いだろう。清花、今度はお前の番だ」
馬に乗った光王がおもむろに顎をしゃくる。
剣術の方はそこそこ上達した清花だが、弓術の方はさっぱりである。
今日もまだ仕留めた獲物は何もない。
同じく馬上の清花が頷いて弓に矢をつがえたときだった。
前方から白い毛の塊が烈しい勢いで突進してくる。
「よし、やれ」
光王の檄が飛び、清花は弦を絞る。
だが、矢は一向に飛ばない。
「どうしたんだ、早く射ろ」
光王が珍しく焦れた声で促す。
清花は緩く首を振った。
「駄目、できない」
「―何故」
光王が清花を見る。その茶色の瞳には、どこか咎めるような色が浮かんでいた。
光王の言は正しかった。脹ら脛の傷は見かけほど深刻なものではなく、包帯も直に必要なくなった。
その夜、光王と枕を並べて眠りながら、清花は何度も昼間の出来事を思い出し、何故か光王の規則正しい寝息が気になって眠れなかった。
山に入って二日めの昼下がり、既に光王は猪二頭、鹿、それに雉三羽を仕留めていた。
射止めた獣は持って帰り、住人の食事に供される。猪鍋は守尹の大好物であった。
「もう俺はこれくらいで良いだろう。清花、今度はお前の番だ」
馬に乗った光王がおもむろに顎をしゃくる。
剣術の方はそこそこ上達した清花だが、弓術の方はさっぱりである。
今日もまだ仕留めた獲物は何もない。
同じく馬上の清花が頷いて弓に矢をつがえたときだった。
前方から白い毛の塊が烈しい勢いで突進してくる。
「よし、やれ」
光王の檄が飛び、清花は弦を絞る。
だが、矢は一向に飛ばない。
「どうしたんだ、早く射ろ」
光王が珍しく焦れた声で促す。
清花は緩く首を振った。
「駄目、できない」
「―何故」
光王が清花を見る。その茶色の瞳には、どこか咎めるような色が浮かんでいた。