妖(あや)しの月に~光と闇の王~【第二部 光の王】
第4章 第二部・生
「だって、見たでしょう。まだ子うさぎだったわ。塒に帰れば、あの子のお母さんが子どもの帰りを待っているかもしれない。なのに、あんな可愛い子うさぎを殺すだなんて」
清花は力なく一度は構えた弓矢を降ろした。
その間に、白い子うさぎは文字どおり脱兎の勢いで逃げてしまった。
ふいに笑い声が弾け、清花は愕いて顔を上げた。
光王が肩を揺すって笑っている。
「こいつは愉快だ」
「何がおかしいの?」
まるで頭から馬鹿にされているようで、清花は声に抗議の意味合いを込めた。
「兎一匹に情けをかけるような奴が本当に人ひとりを殺れると思うのか?」
光王の言葉は尖ったものではあったが、確かに道理に適っている。
「じゃあ、どうすれば良かったというの? あの子うさぎをこの矢で射殺せば良かったとでも言うの!?」
彼の指摘が正しいのだとは理性では判っていたけれど、感情がついてゆけない。
「そうだ」
光王は淡々と言った。いつもの獣に射かけるときの、あの静謐な表情だ。
「俺たちは何も物見遊山でここに来ているわけではない。ちゃんとした目的があって来ている。両班が狩りにゆくような暇つぶしとは違うんだ。真剣にやる気がないのなら、最初から来るな」
そう切り棄て、その後で、唾棄するように言った。
「所詮、お前もただの女だったんだな」
「なに、今、何て言ったの?」
清花は力なく一度は構えた弓矢を降ろした。
その間に、白い子うさぎは文字どおり脱兎の勢いで逃げてしまった。
ふいに笑い声が弾け、清花は愕いて顔を上げた。
光王が肩を揺すって笑っている。
「こいつは愉快だ」
「何がおかしいの?」
まるで頭から馬鹿にされているようで、清花は声に抗議の意味合いを込めた。
「兎一匹に情けをかけるような奴が本当に人ひとりを殺れると思うのか?」
光王の言葉は尖ったものではあったが、確かに道理に適っている。
「じゃあ、どうすれば良かったというの? あの子うさぎをこの矢で射殺せば良かったとでも言うの!?」
彼の指摘が正しいのだとは理性では判っていたけれど、感情がついてゆけない。
「そうだ」
光王は淡々と言った。いつもの獣に射かけるときの、あの静謐な表情だ。
「俺たちは何も物見遊山でここに来ているわけではない。ちゃんとした目的があって来ている。両班が狩りにゆくような暇つぶしとは違うんだ。真剣にやる気がないのなら、最初から来るな」
そう切り棄て、その後で、唾棄するように言った。
「所詮、お前もただの女だったんだな」
「なに、今、何て言ったの?」