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妖(あや)しの月に~光と闇の王~【第二部 光の王】

第4章 第二部・生

 清花が声を尖らせると、光王は肩を軽く竦めた。
「女はいつも感情に流される。可哀想だとか、そんないっときの情で大切な判断を誤る。だから、俺は女を当てにはしない。本当に頼りにできるのは、女であることを武器にできるような―それだけの強さとしたたかさを持つ女、感情に溺れて時局を見失うことのないような女だけだ」
「女であることを武器にする―、それはどういうことなの? 曖昧な言い方で空惚けないでよ」
 清花が非難めいて言うと、光王が妖しい微笑を浮かべた。ゾクリとするような、何とも凄惨なほどの妖艶な笑顔だ。
 まるで心を射貫かれるようで、清花は茫然と眼を瞠った。
「別に空惚けるつもりも煙に巻くつもりもないぞ。何なら、俺が直接教えてやろうか」
 光王が清花に向かって馬を走らせてくる。
 二人の間にはわずかな距離があった。
 光王は愛馬を疾駆させると清花の傍らまでやってくる。二人の乗った馬が並んだと思ったほんのわずかな間に、清花は光王に抱き上げられ、彼の腕の中にいた。
 清花を腕にしっかりと抱き、光王は馬の腹を蹴り、なおも速度を上げる。
「光王?」
 清花が当惑して見上げても、光王はすべてを拒絶するかのような厳しい表情で前方だけを見据えていた。
 光王にぴったりと身体を密着させているので、嫌でも彼の心臓の音が聞こえてくる。
 彼の鼓動が心なしか速い。その速さは訳もなく清花の鼓動をも速める。
 彼は馬を駆り、いつも寝泊まりする山小屋に戻った。山に籠もるときは、大抵、この小屋で起居する。山小屋といっても、一応、人が暮らせるだけの体裁は整っている。夜具もちゃんと二人分あるし、小さな箪笥まである。

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