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妖(あや)しの月に~光と闇の王~【第二部 光の王】

第4章 第二部・生

「俺はお前にこれまで様々なことを教えてきた。だが、ただ一つだけ、まだ教えていなかったことがあった。女刺客に必要なこと、これは俺がお前に与える最後の知識になるだろう」
 光王の吐息が首筋に触れる。
 山に籠もるときは、上着とズボンという動きやすい服装をしている。
 熱を持った大きな手が清花の上衣の紐を解いた。彼が何をする気なのか、流石に清花にも判った。
 身体のあちこちに触れられると、嫌でもあの夜の恐怖を思い出して、寒くもないのに、身体が震える。
「光王、お願い。止めて」
 縋るような眼で見上げた清花を彼は眼を眇めて見つめた。まるで氷の欠片が底できらめいているような美しくて冷たい瞳だ。
 光王が一切の感情を消し去った声音で応える。
「刺客であれば、男性(おとこ)を誑かすすべをも身につけなければならない。刺客にとって、何も武術だけが必要なわけではない。いつかも言ったな? お前には忍耐力が必要だ。たかが男に抱かれたくらいで狼狽えるな」
 冷え切った声音で嘲るように言われ、清花は唇を噛みしめる。
 屈辱にまみれ思わず泣いてしまいそうになるも、ぎりぎりのところで踏みとどまった。
 懸命に自分に言い聞かせる。
 これまで辛く苦しい訓練にも耐えてきたのは何のため?
 すべては復讐のためではないか。私からあの男を奪った憎い王の息の根を止めるため、私はただそれだけのために、今日まで生きてきた。
 もし、復讐という目的がなければ、私はとうにあの男(ひと)の後を追って生命を絶っていただろう。憎しみと復讐の一念だけが、これまで私を生かしてきたのだ。

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