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妖(あや)しの月に~光と闇の王~【第二部 光の王】

第1章 闇

 すべてを干し終え、清花は立ち上がると、右手の拳で腰と肩を軽く叩く。ずっと同じ姿勢でしゃがみ込んでいると、腰や肩にくるのだ。これでは、我ながらお婆さんみたいだと清花は一人で苦笑する。
 清花の瞼に、朴内官の笑顔がふいに浮かんだ。屈託ない笑みを浮かべた優しそうな表情は、まるで春風のようだ。人の心を知らない中に和ませる力を持っている。
―でも、私には所詮、遠い人だ。
 清花は思わずにはいられない。国王殿下の信頼も厚く、内侍府一の切れ者、出世頭と目されている朴内官。
 女官の恋愛はご法度だが、実は内官と女官が恋仲になることはままあった。むろん、これも公にはできないことではあるが、女官たちを取り締まる年配の尚宮たちもある程度は大目に見ている。内官は既に男根を切って〝男〟としての機能は失っている。気持ちの上だけの恋愛関係を何も目くじら立てて取り締まる必要もない。
 それでなくとも、後宮の女官は国王に貞操を立てて一生を後宮という閉鎖された空間に閉じ込められる。せめて、恋の華やぎらしい気分を味わうくらい、若い娘たちには必要なことだろうと尚宮たちは見て見ぬふりをするのだった。
 だからこそ、朴内官のような好青年は女官たちの間でも圧倒的な人気を誇るのだ。が、どう考えてみても、それほど有望な朴内官に自分のような冴えない女が釣り合うとは思えない。朴内官の隣には、春枝のような美人で機転も利く女官がふさわしい。
―どうせ、私は何をやっても失敗ばかりする、駄目な女官だもの。

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