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妖(あや)しの月に~光と闇の王~【第二部 光の王】

第5章 讐

 内侍となるためには、まず男根を切り落とさねばならず、大半は幼時にその施術を受けるが、中には生来、男根はあるものの機能せぬ不具者もいた。内侍を志す者の中には、そういった身体的に欠陥を持った者もいたのである。
 趙某は、幼い頃、生き別れになっていた庶子が突如として見つかり、屋敷に引き取った。とはいえ、嫉妬深く気の強い正妻と折り合いがつかず、結局、屋敷を出すことになった。
 たとえ妾腹とはいえ、自分の血を引く我が子である。何とか身の立つように計らってやりたいが、いかにせん、不運にも、この倅には生まれつき身体的欠陥があった。そのため、他家へ聟養子に出すこともできない。思いあまった趙某が上司である義禁府長に金品を積んで頼み込んで、内官として宮仕えさせる。
 筋書は万全で、清花は見事に〝趙尚真〟に化けて宮殿に再び戻ってきたのである。 
 趙内官と呼ばれた清花は、いささかの動揺も見せず、畏まって頭を下げた。
「今日もまた、ゆくぞ」
 その言葉だけで、清花はすべてを悟る。
「はい、畏まりました」
 趙尚真は直ちに大殿内官に抜擢された。何しろ義禁府長の推薦ゆえ、内侍府長さえ内心は不平があっても、異は唱えられない。
 この頃、国王陽徳山君の狂気はますます烈しくなり、そのふるまいは誰の眼にも尋常とは見えなくなりつつあった。奇行の目立つ王に意見できる者は誰もいない。
 一昨年、唯一、王に対等に物の言える大王大妃が六十七歳という高齢で亡くなった。王にとって祖母に当たるこの女性は息を引き取る間際まで、この不肖の孫と王室のゆく末を案じながら、この世を去った。丁度、趙内官が入宮する少し前のことである。

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