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妖(あや)しの月に~光と闇の王~【第二部 光の王】

第5章 讐

 四年前に朴壮烈という若い内官が死んだ。彼は王の懐刀として信頼を得ていたが、王の愛妾と恋仲になり、あろうことか手に手を取って宮殿から逃れようとしたところを王自ららの手で成敗された。
 この朴内官は平素から歯に衣を着せず王に諫言をしていた。王はこの朴内官の言葉だけは耳を傾けていたものだったが、やはり、王に殺されたのは、立場をわきまえぬ普段の出すぎた言動も原因であったのかもしれない―と噂された。
 そんなこともあって、最早、この暗君の機嫌を損じてまで正しい意見を述べようとする臣下は一人としていなかった。そんな風潮の中で、趙内官は王の信頼を次第に得て、寵臣となっていった。王がヒステリーを起こす度に機嫌を取り、上手くとりなす。
 今では、どこにゆくにも〝趙内官、趙内官〟と探し回り、常に側に置いておくほどの気に入りようであった。
 また、実際、趙内官は我が儘な王を実に巧みに操縦した。王の望むことを読むのに長けているため、けして機嫌を損じることはない。
 数ヵ月前から、王は、しばしばお忍びで町へ出るようになっていた。何のことない、後宮の女たちにも飽きて、今度は外に違う女を求めにゆくだけの話である。
 このところ王のお気に入りは、翠月楼という妓楼の妓生であった。女の名は春(チユン)月(ウォル)。これまでの王好みの派手やかだけれども妍のある美貌とは異なり、大人しやかで地味な女だ。妓生の格好をせず、普通の女のように装えば、到底、これが男に媚を売るのが生業の遊女だとは信じられないだろう。
 この春月の面立ちがどことはなしにかつて王が異常なほど執着した〝具清花〟に似ているとは、当の清花さえ気付いていなかった。
 それにしても、わざわざお忍びで女漁りに出かけるとは、好き者もここまでくれば怒るというよりは呆れる。

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