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妖(あや)しの月に~光と闇の王~【第二部 光の王】

第5章 讐

 それを示すかのように、かつての友、女官の崔春枝と後宮内ですれ違う時、春枝は、ただ眩しげな視線を彼に向けてくるだけだ。春枝の瞳には羨望と憧れが潜んでいる。―いや、他のあまたの女官たちも、男としては小柄ながらも怜悧な美貌と知性を備えた〝趙内官〟に似たような視線を送ってくる。王の第一の寵臣といわれる趙内官に送られてくる恋文は後を絶たなかった。
「殿下、私は女ではございませぬ。お気持ちは畏れ多く、ありがたいことにございますが、折角賜りましても、私には使う機会のなきものです」
 あくまでも機嫌を損ねないように丁重に辞退すると、王が真顔になった。
「予は別にそなたを女だとは思うてはおらぬ。確かにそなたは女顔であるし、男にしては線が細いが、女ではない。幾ら巷で暗愚だと囁かれておる予でも、男と女の区別くらいはつくぞ」
「滅相もないことにございます。殿下が暗愚などと誰が申しましょうか? 殿下は紛れもなく太宗(テジヨン)大王の再来と讃えられる聖君におわします」
 慌ててとりなすが、王は肩をすくめた。
「あまりに過大に賞めすぎるのは、かえって逆効果だとは知らなかったか?」
「は、はっ。畏れ多いことにございます」
「いつも憎らしいほど落ち着き払ったそなたでも、狼狽えることがあるのか」
 おかしそうに笑ったかと思うと、ふと笑いをおさめた。
「予が好きなのは女だけではない、男を愛でるのも一興と最近は思い始めてな。宮殿の女どもも、もう飽きた。どれもつんと取り澄まして、己れの美しさを鼻に掛けるだけのつまらぬ女たちだ」
 思わず膚が粟立ったのは、何も正体がバレたかと思ったからだけではなかった。

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