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妖(あや)しの月に~光と闇の王~【第二部 光の王】

第5章 讐

 言いかけて、清花は言葉を途切れさせた。
「申し訳ございません」
 慌てて謝るのに、王は吹き出した。
「おかしな奴だ。どうも趙内官、予は―、いや、私はそなたと共にいるようになってから、笑う回数が増えたような気がするぞ。そなたが参るまでは、宮殿はつまらぬ場所であった。皆、私の顔色を窺うばかりで戦々恐々としておる。その癖、私の癇を立てるようなことばかり申す馬鹿な者たちばかりで、辟易としておったわ。そなたは違う、常に私の気持ちを先回りして読み、それがまた外れることがない。趙内官こそ、真の忠臣よ」
「―ははっ、畏れ入りましてございます」
 清花は冗談ではなく、冷や汗ものだった。朝廷の大臣たちから〝新入りの大殿内官こそ、殿下の愚行を諫めるどころか、御意に迎合し煽るばかりの奸臣〟と自分が酷評されていることを知っているからだ。
「旦那(ダーリー)さま」
 清花は呼びかけてから、コホンと小さな咳払いをした。
「ところで、先日お話しになっていた春月を後宮に納れるという話は真にございますか?」
「うん? ああ、あの話か。そなたは、どう思う、趙内官」
 意見を問われる形ではあるが、こういう場合、相手の気持ちは既に決まっている。ここは王の気持ちに添った応えをするのが模範的な回答だろう。
「はい、私は良いお話ではないかと存じます」
「しかし、相手は妓生だぞ? 大臣どもが納得するであろうか」
 畳みかけるように問う王に、清花は首を振る。

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