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妖(あや)しの月に~光と闇の王~【第二部 光の王】

第5章 讐

「たとえ大臣たちが何を言おうと、旦那さまはこの国の王でいらっしゃるのですから、何を躊躇われることがございましょう。旦那さまには、そこまで想われる女人がおできになったのです。その女人を宮殿にお迎えしたからとて、非難できる者などおりませぬ。むろん、いきなり高位のお妃としては無理があるかもしれませんが、まずは淑媛の地位をお与えになればよろしいかと存じます。さすれば、朝廷からの風当たりも少しは違いましょう」
 言った後で、最後の部分は余計だったかもしれないと思う。たかだか内官にすぎない分際で、出すぎたことを言ったと勘気に触れる可能性もあるだろう。
 しかし、王はそのことについては、特に何も言わなかった。不意打ちを食らい、かえって拍子抜けしたような気がする。
 王は春月の後宮入りの話など忘れ果てたかのように、また別の話を始めた。
 むろん、そのまま翠月楼へと脚を向けたのだが、生憎、春月は軽い夏風邪を引き込んだとかで床についていると女将が言う。別の妓生を勧める女将に、王は、今日はこのまま帰ると告げて出てきた。
「春月に十分、養生するようにと申し伝えてくれ」
 王は入り口際で見送りに出てきた女将にそう言った。
「いかがなされますか、今日はもう宮殿にお戻りになられますか」
 清花が訊ねると、王は首を振った。
「折角の外出だ、このまま帰るのも能がなかろう」
 そう言いおくと、一人でさっさと先に行ってしまった。やむなく清花もその後に従う。
 色町を抜けると、忘れ去られたようにポツンとうらぶれた酒場が眼についた。
「よし、ここで一杯やってゆこう」
 やれやれと清花は溜息をつきたくなる。

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