妖(あや)しの月に~光と闇の王~【第二部 光の王】
第5章 讐
清花は素早く盃を持った。並々と注がれた酒を恭しく押し頂き、ひと息に呑む。
白い喉を熱い感触が通り過ぎてゆく。
王は清花が酒を飲み干すのをじいっと感情の読めぬ瞳で見つめていた。
「それはそうと、趙内官。そなたは下戸ではなかったか?」
何気なく問われ、清花はハッとした。
「いいえ、私は下戸ではございませぬが」
これまで王の相手をして大殿の執務室で夜遅くまで酒を呑んだことは何度もある。
光王の塒にいた時代、酒を呑む練習はしっかりとした。光王は相当量いけるクチだったから、随分と鍛えられたものだ。今では、銚子二、三本空けたくらいでは、酔わないほど酒に強くなった。
「そうか、では、予の思い違いか」
二人で酒を呑んだことを忘れるはずもないのに、王は何を言いたいのか。まさか、とうとう頭に来て、本当に忘れてしまったのか。それとも、何か含むところがあって、わざとこんなことを言っているのか。
遠くで雷鳴がかすかに聞こえた。
梅雨入りして間もない時期である。急な夕立でも来るのかもしれない。
部屋の中が重苦しいほどの沈黙に閉ざされた。時折、ゴロゴロと雷の嫌な音が響くだけだ。
「嫌な天気でございますね。ひと雨来るのでございましょうか」
その場を取りもつつもりで言った言葉にも、王は何の反応も示さず、全く別のことを呟いた。
「凍えながら寝るなと言わないで。ここに枕と布団があるでしょう、この布団で凍えたあなたを温めましょう」
歌うような口調に、何かの詩か歌なのだと知れる。
王が清花を見つめた。
「この詩を知っているか?」
白い喉を熱い感触が通り過ぎてゆく。
王は清花が酒を飲み干すのをじいっと感情の読めぬ瞳で見つめていた。
「それはそうと、趙内官。そなたは下戸ではなかったか?」
何気なく問われ、清花はハッとした。
「いいえ、私は下戸ではございませぬが」
これまで王の相手をして大殿の執務室で夜遅くまで酒を呑んだことは何度もある。
光王の塒にいた時代、酒を呑む練習はしっかりとした。光王は相当量いけるクチだったから、随分と鍛えられたものだ。今では、銚子二、三本空けたくらいでは、酔わないほど酒に強くなった。
「そうか、では、予の思い違いか」
二人で酒を呑んだことを忘れるはずもないのに、王は何を言いたいのか。まさか、とうとう頭に来て、本当に忘れてしまったのか。それとも、何か含むところがあって、わざとこんなことを言っているのか。
遠くで雷鳴がかすかに聞こえた。
梅雨入りして間もない時期である。急な夕立でも来るのかもしれない。
部屋の中が重苦しいほどの沈黙に閉ざされた。時折、ゴロゴロと雷の嫌な音が響くだけだ。
「嫌な天気でございますね。ひと雨来るのでございましょうか」
その場を取りもつつもりで言った言葉にも、王は何の反応も示さず、全く別のことを呟いた。
「凍えながら寝るなと言わないで。ここに枕と布団があるでしょう、この布団で凍えたあなたを温めましょう」
歌うような口調に、何かの詩か歌なのだと知れる。
王が清花を見つめた。
「この詩を知っているか?」