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妖(あや)しの月に~光と闇の王~【第二部 光の王】

第5章 讐

愛していた?
 私を力ずくで意のままにし、慰みものにしようとした男が私を愛していたと―?
 そう、言ったのか。
 きっと何かの間違いだ。そんなことがあるはずもない。愛しているならば、あんなに酷い目に遭わせるはずはない。朴内官のように優しく包み込んでくれる―、それが真実、人を愛するということではないか。
 思い惑う清花の心を、更に追い打ちをかける言葉が刺し貫く。
「今更、言い訳にしかならぬであろうが、愛し方にも色々あるだろう。穏やかな春風のようにゆったりと包み込む愛、見守る愛もあれば、時には愛する相手だけでなく、自分自身をも滅ぼしてしまうほど烈しい愛もある。予もその女を穏やかな愛情で包み込んでやれれば良かったのだろうが、結局、できなかった。どうしても女を振り向かせたい、手に入れたい一心で、女の愛しい男を殺した」
 言い終わるか終わらない中に、烈しい雷鳴が轟き、轟音が耳をつんざいた。
 カッと紫の妖しい閃光が禍々しいほど黒い闇に覆われた空でひらめく。
「振り向かないのなら、憎まれても良いから、女の記憶に自分をとどめておきたいと思ったのだ。過去の人間として忘れ去られるのだけは耐えられなかった。恋しい男を手に掛けた予を女は一生忘れまい。憎しみの焔をその胸に燃やしながら、予を恨み続けるはずだ」
「それは、あまりにも身勝手というものです、殿下。殿下はそれでご満足かもしれませんが、殺された男はどうなるのでしょう。そんな身勝手な理由で死ななければならなかった男が到底、浮かばれるとは思えません」
 清花は烈しい殺意にゆっくりと呑み込まれた。この男の喉に剣を沈ませ、決着をつけたかった。
 御仏が自分を勝者に選んでくれた。

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