妖(あや)しの月に~光と闇の王~【第二部 光の王】
第5章 讐
刹那、再び轟音がとどろき、稲光が光った。その強い光はたった一瞬ではあるが、暗雲に覆い尽くされた地上を真昼のように照らした。
王の〝清花よ〟という呼びかけが雷鳴となり、まるで清花の身体を貫き、駆け抜けたようだった。
耳を聾するほどの爆音が鳴り響いた後は、嘘のような静けさが戻ってくる。
再び、しのつく雨の音だけが耳に入ってきた。
やはり、と思った。
王は自分の正体を知っていたのだ。
しかし、何故、王は真実を知りながら、敢えて知らぬふりを通し、最後まで清花に〝趙内官〟として接したのだろう。
「いつから気付いていらっしゃったのですか」
清花が震える声で問うと、王の苦しげな表情に束の間、うっすらと笑みがひろがった。
「予も最初からそなたの正体に気付いていたわけではない。ひとめ見ただけでは、今のそなたの外見は、かつて予が知っている清花のものとはまるで違うからな。だが、そなたを常に側近くで見ている中に、何かが違うと思った」
全く似ても似つかない〝趙尚真〟の中に時折、清花の面影がかいま見えたのだ。最初は思い違いかと思った。
あまりにも未練がましくそなたを恋しく思い続けているゆえ、男である趙内官の中にありもしない幻を見ているのだろう、とうとう自分は本当に狂王となり果てたのだとしか思えなかった。
王は荒い息を吐きながら、ようよう言葉を紡ぎ出す。
「だが、そなたから譲り受けた銀細工の簪を見せたときの狼狽えぶり、顔色が変わるのを見て、疑いが確信に変わった」
王の口からまた音を立てて、血が零れた。
王の〝清花よ〟という呼びかけが雷鳴となり、まるで清花の身体を貫き、駆け抜けたようだった。
耳を聾するほどの爆音が鳴り響いた後は、嘘のような静けさが戻ってくる。
再び、しのつく雨の音だけが耳に入ってきた。
やはり、と思った。
王は自分の正体を知っていたのだ。
しかし、何故、王は真実を知りながら、敢えて知らぬふりを通し、最後まで清花に〝趙内官〟として接したのだろう。
「いつから気付いていらっしゃったのですか」
清花が震える声で問うと、王の苦しげな表情に束の間、うっすらと笑みがひろがった。
「予も最初からそなたの正体に気付いていたわけではない。ひとめ見ただけでは、今のそなたの外見は、かつて予が知っている清花のものとはまるで違うからな。だが、そなたを常に側近くで見ている中に、何かが違うと思った」
全く似ても似つかない〝趙尚真〟の中に時折、清花の面影がかいま見えたのだ。最初は思い違いかと思った。
あまりにも未練がましくそなたを恋しく思い続けているゆえ、男である趙内官の中にありもしない幻を見ているのだろう、とうとう自分は本当に狂王となり果てたのだとしか思えなかった。
王は荒い息を吐きながら、ようよう言葉を紡ぎ出す。
「だが、そなたから譲り受けた銀細工の簪を見せたときの狼狽えぶり、顔色が変わるのを見て、疑いが確信に変わった」
王の口からまた音を立てて、血が零れた。