妖(あや)しの月に~光と闇の王~【第二部 光の王】
第2章 恋
恋
その数日後、清花は生果房に出向いた。生果房は国王や王妃にお出しするデザートを賄う部署である。
清花の直属の上司である張尚宮は、かつて大王大妃に仕えていた。その関係で、いまだに脚繁く大王大妃の許に出入りしている。大王大妃金氏はむろん権門の姫であるが、驕ったところのない穏やかな性格であった。
既に六十近い大王大妃は、このところの暑さで、すっかり参っていた。食欲がとみに落ちて、松の実粥しか受けつけなくなっているのを先日見舞った張尚宮がたいそう心配している。それもそのはずで、身寄りのない張尚宮を大王大妃は実の娘のように可愛がってくれたというのだ。
その張尚宮自身も既に四十を越えているが、月日は経っても、主従の絆は弱まるどころか強くなっているようであった。
張尚宮が大王大妃に何をお召し上がりになりたいかと訊ねたところ、干し棗だと仰せになったとかで、そのことを生果房に伝えにゆくようにと清花が張尚宮から命じられたのである。
清花は生果房に顔見知りの女官がいる。その娘に頼んで、自分も臨時でデザート作りに加えて貰った。清花が考えたのは、暑い夏に食欲をそそるもの、つまり冷たいものが良いのではないかということだった。
干し棗をそのままお出しするのも良いが、寒天を煮固めた中に刻んだ干し棗を入れ、冷たく冷やしたら、どうだろう。それに、やはり細かく刻んだ干し棗を入れた蒸し饅頭―。
甘い物好きの清花は、想像しただけで腹の虫が鳴りそうに思える。無理をきいて貰って干し棗をふんだんに入れた寒天寄せと蒸し饅頭を作り、それらを涼しげなギヤマンの器に盛りつけ、小卓に乗せた。
その数日後、清花は生果房に出向いた。生果房は国王や王妃にお出しするデザートを賄う部署である。
清花の直属の上司である張尚宮は、かつて大王大妃に仕えていた。その関係で、いまだに脚繁く大王大妃の許に出入りしている。大王大妃金氏はむろん権門の姫であるが、驕ったところのない穏やかな性格であった。
既に六十近い大王大妃は、このところの暑さで、すっかり参っていた。食欲がとみに落ちて、松の実粥しか受けつけなくなっているのを先日見舞った張尚宮がたいそう心配している。それもそのはずで、身寄りのない張尚宮を大王大妃は実の娘のように可愛がってくれたというのだ。
その張尚宮自身も既に四十を越えているが、月日は経っても、主従の絆は弱まるどころか強くなっているようであった。
張尚宮が大王大妃に何をお召し上がりになりたいかと訊ねたところ、干し棗だと仰せになったとかで、そのことを生果房に伝えにゆくようにと清花が張尚宮から命じられたのである。
清花は生果房に顔見知りの女官がいる。その娘に頼んで、自分も臨時でデザート作りに加えて貰った。清花が考えたのは、暑い夏に食欲をそそるもの、つまり冷たいものが良いのではないかということだった。
干し棗をそのままお出しするのも良いが、寒天を煮固めた中に刻んだ干し棗を入れ、冷たく冷やしたら、どうだろう。それに、やはり細かく刻んだ干し棗を入れた蒸し饅頭―。
甘い物好きの清花は、想像しただけで腹の虫が鳴りそうに思える。無理をきいて貰って干し棗をふんだんに入れた寒天寄せと蒸し饅頭を作り、それらを涼しげなギヤマンの器に盛りつけ、小卓に乗せた。