妖(あや)しの月に~光と闇の王~【第二部 光の王】
第2章 恋
「これほど美味しいゼリーを食べたのは初めてだ。礼を申すぞ。これはほんの私の気持ちゆえ、遠慮無く受け取るが良い」
清花が傍らの張尚宮を見ると、調尚宮も鷹揚に頷く。清花は膝をいざり進めると、差し出された巾着を押し頂いた。手にした巾着はずっしりとした重みがある。恐らく、宝石で作った細工物が入っているのだろう。
「畏れ多いことにございます。一生、大切に致します」
「ホホ、主(あるじ)が主なら、やはり仕える女官も物言いがいちいち大袈裟だな」
金氏は声を立てて笑いながら、優しいまなざしで清花を見つめた。
その間も、王の執拗な視線は清花に絡みついて離れようとしない。清花は冷や汗が背中をつたうのを感じていた。
「そなたのように心優しい娘が孫嫁になってくれたら、どれだけ安心できるであろうか。主上には幾らご再婚をお勧めしても、もう二度と権門の家の令嬢はご免だと仰せになるばかりで、私もいつまで経っても肩の荷が降りぬ」
そのひと言に、その場が一瞬、凍りついた。
果たして、この言葉に王がどのような反応を示すか。皆、怒り狂い、無理難題を言い出す王の姿を一様に思い描いたことは間違いない。
が、意外にも、その重たい沈黙は、当の王自身の言葉で救われた。
「祖母上の仰せのとおりです。両班の令嬢の中に、この者のように気働きもでき、なおかつ心優しい娘がおれば、私は明日にでもその姫を后に迎えましょうに、残念なことにございます」
大王大妃もまた、その言葉に幾度も頷く。
「なかなか人を見る眼の厳しい張尚宮が見込んだ女官だけはある。張尚宮、その者は大切に育て、仕込めば、いずれはそなたの跡を継いで尚宮として後宮の要となって働いてくれるであろう」
清花が傍らの張尚宮を見ると、調尚宮も鷹揚に頷く。清花は膝をいざり進めると、差し出された巾着を押し頂いた。手にした巾着はずっしりとした重みがある。恐らく、宝石で作った細工物が入っているのだろう。
「畏れ多いことにございます。一生、大切に致します」
「ホホ、主(あるじ)が主なら、やはり仕える女官も物言いがいちいち大袈裟だな」
金氏は声を立てて笑いながら、優しいまなざしで清花を見つめた。
その間も、王の執拗な視線は清花に絡みついて離れようとしない。清花は冷や汗が背中をつたうのを感じていた。
「そなたのように心優しい娘が孫嫁になってくれたら、どれだけ安心できるであろうか。主上には幾らご再婚をお勧めしても、もう二度と権門の家の令嬢はご免だと仰せになるばかりで、私もいつまで経っても肩の荷が降りぬ」
そのひと言に、その場が一瞬、凍りついた。
果たして、この言葉に王がどのような反応を示すか。皆、怒り狂い、無理難題を言い出す王の姿を一様に思い描いたことは間違いない。
が、意外にも、その重たい沈黙は、当の王自身の言葉で救われた。
「祖母上の仰せのとおりです。両班の令嬢の中に、この者のように気働きもでき、なおかつ心優しい娘がおれば、私は明日にでもその姫を后に迎えましょうに、残念なことにございます」
大王大妃もまた、その言葉に幾度も頷く。
「なかなか人を見る眼の厳しい張尚宮が見込んだ女官だけはある。張尚宮、その者は大切に育て、仕込めば、いずれはそなたの跡を継いで尚宮として後宮の要となって働いてくれるであろう」