妖(あや)しの月に~光と闇の王~【第二部 光の王】
第2章 恋
女官になったお陰で、時には珍しい美しい布や庶民では到底口に出来ないような珍しい菓子を母に土産として持ち帰ることだってできる。
初めての給料を貰った時、清花はそれを大切に取っておいた。宿下がりで都に出た際、露店で高価な美々しい単布を求め、土産に持って帰ったときのことだ。
―女官になったお陰で、こんな綺麗な布をお母さん(オモニ)に贈ることができるようになった。もし、どこかのお屋敷で働いていたり、家で仕立物の内職をしていたら、私の歳で到底、こんな高い布を買うだけのお金は持てなかったわ。お母さんはいつも他人様(ひとさま)の服をせっせと縫うだけで、自分は綺麗な服なんて一度も着たことないでしょ、今度は、この布で自分の服を仕立ててね。
清花がそう言った時、母は声を上げて泣いた。
―私は綺麗な服を着たくて、お前を女官にあげたんじゃない。ああ、私は何という情けない母親だろう、私はこんな布一枚と大切な娘を引き替えにしたっていうのかい?
数ヵ月後、清花が次に実家に帰った時、母が虹色に輝く美しいチマチョゴリを大切そうに取り出してきた。光沢のあるたっぷりとした生地に精緻な花の刺繍が散っているチマとチョゴリは同じ布で仕立てられている。
―これは。
息を呑む清花に、母は鼻を啜った。
―汚い手で触るんじゃないよ。これは、お前の婚礼衣装なんだからね。
何と、母は娘の贈った高価な布を自分のためにではなく、娘の嫁入り衣装に仕立ててしまったのだ。
―でも、お母さん、私は一生、お嫁にはゆけないのに。
戸惑いと落胆でしょげ返る清花に、母は泣き笑いの顔で応えたものだ。
初めての給料を貰った時、清花はそれを大切に取っておいた。宿下がりで都に出た際、露店で高価な美々しい単布を求め、土産に持って帰ったときのことだ。
―女官になったお陰で、こんな綺麗な布をお母さん(オモニ)に贈ることができるようになった。もし、どこかのお屋敷で働いていたり、家で仕立物の内職をしていたら、私の歳で到底、こんな高い布を買うだけのお金は持てなかったわ。お母さんはいつも他人様(ひとさま)の服をせっせと縫うだけで、自分は綺麗な服なんて一度も着たことないでしょ、今度は、この布で自分の服を仕立ててね。
清花がそう言った時、母は声を上げて泣いた。
―私は綺麗な服を着たくて、お前を女官にあげたんじゃない。ああ、私は何という情けない母親だろう、私はこんな布一枚と大切な娘を引き替えにしたっていうのかい?
数ヵ月後、清花が次に実家に帰った時、母が虹色に輝く美しいチマチョゴリを大切そうに取り出してきた。光沢のあるたっぷりとした生地に精緻な花の刺繍が散っているチマとチョゴリは同じ布で仕立てられている。
―これは。
息を呑む清花に、母は鼻を啜った。
―汚い手で触るんじゃないよ。これは、お前の婚礼衣装なんだからね。
何と、母は娘の贈った高価な布を自分のためにではなく、娘の嫁入り衣装に仕立ててしまったのだ。
―でも、お母さん、私は一生、お嫁にはゆけないのに。
戸惑いと落胆でしょげ返る清花に、母は泣き笑いの顔で応えたものだ。