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妖(あや)しの月に~光と闇の王~【第二部 光の王】

第2章 恋

 翌日になった。
 清花は春枝と二人でいつものように井戸端で洗濯に励んだ。大量の洗濯物を二人で苦労して洗い終えた頃、春枝は張尚宮に呼ばれて、そちらへ行った。まだ見習いの幼い少女が呼びにきたのである。
 干すのは一人でやったので、大幅に時間がかかってしまった。漸くすべてを干し終え、空になった籠を片手に殿舎へと戻る途中のことだった。
 宮殿は途方もなく広い。幾つもの殿舎が広大な敷地の中に建っていて、国王の居住する大殿(テージヨン)、王妃が住まう内殿を初め、それぞれの妃たちが与えられた殿舎が点在している。公に認められた側室ともなれば、独立した殿舎を賜ることになる。現国王には十八人もの側妾がいるため、殆どの殿舎は住人がいて満員状態だ。
 これが陽徳山君の祖父、つまり大王大妃の良人高宗の御世は、側室が二人という規模の小さな後宮であったため、空いている殿舎が殆どであったというのが今も語りぐさとなっている。
 当時、王妃であった金氏の嫉妬心が強く、正妻をはばかったためだとも云われているが、金氏はけしてそのような嗜みのない婦人ではなかった。それは昨日、実際に初めて近しくお目にかかってみて知り得た。
 噂どおり、高宗は心底から美しい妻を愛していたのだろう。二人いたという側室も世子時代に父王から命じられて娶った大臣の娘たちで、王となってから後、高宗は一人の側室も新たに置いてはいない。
 警護の衛兵たちは常駐しているものの、殿舎と殿舎の間―通路や広場は昼間でも人通りはあまりなく、時折、女官たちが群れて行き交う他は、極めて静かなものだ。

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