妖(あや)しの月に~光と闇の王~【第二部 光の王】
第2章 恋
これが国王や王妃の移動ともなれば、大きな天蓋を捧げ持った内官や尚宮、女官たちがぞろぞろと後ろから付き従い、賑々しいこと、この上ない。側室たちの移動ですら、大勢の伴を引き連れてとなる。
清花は、ひっそりとした通路を一人、歩いていた。考え事に耽っていた清花の前に、突如として立ちはだかった人影があった。
石畳に伸びた長い影を見、清花はハッとして面を上げた。
長身の男が通せんぼをするように、ゆく手を遮っている。
「国王(チユサン)殿下(チヨナー)」
清花は慌てて脇に寄り、頭を垂れた。
「具清花と申したか? そなたに逢いたくて、追いかけ回すのも随分と骨が折れたぞ?」
揶揄するように笑いを含んだ声音はけして機嫌の悪さを示すものではない。だが、そのひと言に、清花は愕然とした。
今、国王殿下は何と言った―?
―そなたに逢いたくて、追いかけ回すのも随分と骨が折れたぞ?
思い出しただけで、鳥肌が立つような科白だった。
少なくとも、数日前、井戸端で初めて間近に王を見てからというもの、自分は王を見かけてはいない。なのに、王は清花を追いかけ回していたという。
もしや、殿下は私をずっと、つけ回して?
そう考え、清花は全身を冷たいもので撫で回されたときのような嫌な気持ちになった。
「張尚宮やそなたが帰った後、予も祖母上と一緒に蒸し饅頭を食べた。あれは実に美味しかったぞ。どうだ、もう一度、今度は予のために、あれと同じものを作ってはくれぬか」
機嫌の良い声で続ける王に、清花は小さな声で応えた。
「あ、あのようなものでよろしければ、いつでもお作り致します」
清花は、ひっそりとした通路を一人、歩いていた。考え事に耽っていた清花の前に、突如として立ちはだかった人影があった。
石畳に伸びた長い影を見、清花はハッとして面を上げた。
長身の男が通せんぼをするように、ゆく手を遮っている。
「国王(チユサン)殿下(チヨナー)」
清花は慌てて脇に寄り、頭を垂れた。
「具清花と申したか? そなたに逢いたくて、追いかけ回すのも随分と骨が折れたぞ?」
揶揄するように笑いを含んだ声音はけして機嫌の悪さを示すものではない。だが、そのひと言に、清花は愕然とした。
今、国王殿下は何と言った―?
―そなたに逢いたくて、追いかけ回すのも随分と骨が折れたぞ?
思い出しただけで、鳥肌が立つような科白だった。
少なくとも、数日前、井戸端で初めて間近に王を見てからというもの、自分は王を見かけてはいない。なのに、王は清花を追いかけ回していたという。
もしや、殿下は私をずっと、つけ回して?
そう考え、清花は全身を冷たいもので撫で回されたときのような嫌な気持ちになった。
「張尚宮やそなたが帰った後、予も祖母上と一緒に蒸し饅頭を食べた。あれは実に美味しかったぞ。どうだ、もう一度、今度は予のために、あれと同じものを作ってはくれぬか」
機嫌の良い声で続ける王に、清花は小さな声で応えた。
「あ、あのようなものでよろしければ、いつでもお作り致します」